156 / 330

 ―― 陽炎(8)

 強い口調は、決して投げやりという訳ではなく、真っ直ぐに見詰めてくる瞳は、強くて優しい。  こんな状況で、そんな瞳で僕を見るなんて、狡いよ。  慎矢は、僕に目を合わせたまま、手早く僕のベルトを外して、ファスナーを下ろした。 「慎矢……何してっ……」  止める間もなかった。 慎矢は僕の股間に顔を近づけ、窮屈なところから解放された屹立に、躊躇することなく先端から咥内に呑み込んでいく。  根元に指を絡めて扱きながら頭を上下する度に、濡れた音が太陽の光が入る明るい部屋に響いていた。  慎矢にとっては、きっと初めての行為。  今、君は何を考えているんだろう。  欲しているのに、いけない事だと自分を抑えようとする慎矢。それでも僕を留める為に、こんな事を……だけど、させているのは僕だ。  感じるところに舌が這い、先端を刺激されて、久しぶりだからか僕は簡単に頂天へと追い詰められていく。 「……ん、……ぅ……ん」  時々、慎矢の喉奥に先端が当たると、苦しそうな声が漏れ聞こえる。  ――気持ち、いい……。  だけど、それとは 別に感じる、この気持ち。胸の奥が、痛くて 痛くて 仕方ない。  それは、この前ここで、慎矢と肌を重ねたあの時と似ているけど、それとはまた別の感情に思える。 「……しん、や……もう……っ」  限界が近い。慎矢の咥内で自身が脈打ち、質量が増した。  ――もう、いいよ。  と、言いかけた僕を、慎矢は上目遣いで確認するような視線を送り、それから上下する速度を速めた。 「だ、ダメ、慎矢……っ」  太腿が痙攣したように震え始めて、頭を掴んで止めようとしたけれど、慎矢は動きを止めない。   やがて促すように先端を吸い上げられて、僕は大きく身体を震わせながら、あっけなく慎矢の咥内で果ててしまった。 「――っ……ん」  慎矢は顔を伏せたまま、僕の吐き出した欲を全て咥内で受け止めてくれた。  半身がトクントクンと何度も脈打ち、数度に分けて放った欲は、慎矢の喉奥だけでなく、心まで犯してしまうような気がした。  胸が、痛い。  慎矢との行為は、胸が痛くて、苦しい。  目頭が熱くて、気が付けば、涙で慎矢の姿が滲んで見えた。 「――駄目、吐き出して、慎矢」  僕は、ベッドヘッドに手を伸ばして、テイッシュを数枚掴んで慎矢に差し出した。  だけど、慎矢は喉を上下させて、僕の欲を全て飲み干すと、「……大丈夫だよ」と言って、微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!