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―― 陽炎(19)
「……あ……ぁ……ッ……」
意識が深い闇に引き摺り込まれそうになるのに、先生に与えられる残酷な快感はそれを許してくれない。
力が抜けて、手首を戒められたまま、膝から床へ落ちそうになる身体を、先生の両腕に抱きとめられていた。
「そんなに気持ち良い?」
耳朶を食みながら濡れた声に囁かれ、包み込まれた腕の中で、僕は完全に身を委ね、先生に堕ちてしまう。
喘がされ、開きっぱなしの口端から溢れる唾液と、快楽に溺れて流した涙を、先生は舌で掬うように嘗め取っていく。
気が付けばいつも、身体も、そして…… 心さえも、この人に支配されてしまう。
それが、たとえ薬の力を借りていたとしても、この空間では確かに僕は、この人のモノになってしまう。
結局は、絶対的な力の前には、僕の弱い心など、抗うことなんて出来はしない。
先生に暴力的とも言える快楽を与えられ、僕は……忘れてしまう。
埋められない寂しさも……慎矢との約束も、父さんのことも、何もかも。
今までもずっとそうだった。この時だけは何もかも忘れて、ただ快楽だけを貪ることが出来るって、僕は知っている。…… だから、
「俺にどうして欲しい?」
その言葉に、僕は絶対服従の誓いを口にする。
「……先生……お願い……何でもする……から……イカセテ」
先生は、眼鏡を外して棚の上に置くと、ご褒美とばかりに唇を重ねてくれる。
先生の綺麗な顔が視界いっぱいに広がっているのを、恍惚と眺めながら、唇を割り挿ってきた舌を迎え入れる。
「可愛いね。反抗的な伊織もゾクゾクするけど、こんな風に従順な君はもっと愛おしい」
戒めを解いた僕の手首に口付けて、冷たい汗に濡れた身体を優しく抱き締めてくれる。
先生は漸く、先端に突き刺さったままの細い棒を、ゆっくりと引き抜いていく。
「――っ、……あっ、あっ」
細い棒がそこから抜けていく、その刺激に震える僕の背中を、宥めるように撫でてくれた。
堰き止められていた熱が流れ、僕は半身をビクビクと震わせながら、白濁を迸らせた。
意識を手放しそうになる夢と現実の狭間で、「伊織」と、僕の名を呼ぶ、優しい声が聞こえた気がして、ふわりと抱き上げられる。
ゆっくりとソファーに仰向けに寝かされて、先生が覆い被さるように口付けてきた。
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