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―― 陽炎(20)
いつもそう……。
僕が手の中に堕ちたのを確認すると、先生は優しいキスをくれる。 まるで恋人にするように、僕の髪を撫でながら。
愛してると言われてるような気がしてくる。
それで僕は、先生のことを愛しているような錯覚をしてしまう。
クールな印象の端正な顔立ち。
いつもは、蒼白く見える頬に、少し赤がさしたように見える。
伏せた長い睫毛が、ゆっくりと上がる。
いつもは感情のない、冷たい人形のような瞳なのに、至近距離で目が合ったその瞳は、暖かい色をしているように見える。
それは全部、薬の所為で、限界まで蕩けさせられた体内や、惚けてしまった頭が見せる幻想なのかもしれない。
どこまでが現実なのか、区別がつかないけれど…… 敏感になり過ぎている肌を、先生の舌に愛撫されると、またゾクゾクと快感が駆け上がっていく。
不意に先生の身体が離れて、寂しさに身震いする。
「……せんせ……」
僕が呼ぶと先生は、微かに微笑んでみせてくれる。
それから、ペットボトルの水を口に含み、またすぐに唇を重ねてきた。 口移しでくれた水が、少しだけ喉を潤していく。
「目の焦点が合ってないな」
と、先生は僕の目を覗き込むようにして、苦笑した。
「先生、早く……」
先生の言葉の意味すら理解できない程に、もう我慢が出来なくなっている僕は、自ら腕を先生の首に絡めて、次を催促する。
「……早く、何をして欲しいんだ?」
意地悪な言葉も、甘い愛の囁きに思える。
「早く、先生のが欲し……、僕の中を先生で一杯にして欲しい」
そうして、ひとつになって溶け合うような、あの感覚を味わいたいんだ。
先生は、啄むように何度もキスをくれて、「いいよ」と甘く囁いた。
僕の足を抱え上げ、先生の熱い切っ先が宛てがわれただけで、そこは期待にヒクついている。
とろとろに蕩けさせられている内壁は、侵入してきた先生の形を探るように纏わりついていく。
硬い灼熱の杭を中まで全部埋め込んでピタリと肌が合わさると、「伊織の中に俺がいるのが分かるか?」と、確かめるように聞いてくる。
「うん……」
下腹部に触れながら、先生を見上げると、中で先生のが脈打って、更に膨れるのを感じた。
「……伊織……」
声と共に、熱い吐息が落ちてきて、頬にかかる。
そのまま首筋や胸の尖りに舌を這わせながら、先生はゆっくりと律動を始める。
「ん……あ……っ、……」
熱くなり過ぎている身体は、貪欲に快楽を呑み込んでいく。
濡れた舌の感触に身体を震わせると、中の肉襞は、もっと奥へと誘うように収縮し、先生を締め付けた。 まるで身体の中でひとつに混ざり合おうとしているみたいに。
先生が腰の動きを早めて、感じるところを何度も的確に突かれると、またすぐに限界が迫ってくる。
「――んあっ、あ……、も、イきそう……」
底のない快楽の渦に巻き込まれそうで、思わず伸ばした手に先生が指を絡ませてくれる。
見上げると、先生は、苦しそうに切ない表情で…… 目を閉じていた。
――いつも、僕がそうするように。
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