168 / 330

 ―― 陽炎(20)

 いつもそう……。  僕が手の中に堕ちたのを確認すると、先生は優しいキスをくれる。 まるで恋人にするように、僕の髪を撫でながら。  愛してると言われてるような気がしてくる。  それで僕は、先生のことを愛しているような錯覚をしてしまう。  クールな印象の端正な顔立ち。  いつもは、蒼白く見える頬に、少し赤がさしたように見える。  伏せた長い睫毛が、ゆっくりと上がる。  いつもは感情のない、冷たい人形のような瞳なのに、至近距離で目が合ったその瞳は、暖かい色をしているように見える。  それは全部、薬の所為で、限界まで蕩けさせられた体内や、惚けてしまった頭が見せる幻想なのかもしれない。  どこまでが現実なのか、区別がつかないけれど…… 敏感になり過ぎている肌を、先生の舌に愛撫されると、またゾクゾクと快感が駆け上がっていく。  不意に先生の身体が離れて、寂しさに身震いする。 「……せんせ……」  僕が呼ぶと先生は、微かに微笑んでみせてくれる。  それから、ペットボトルの水を口に含み、またすぐに唇を重ねてきた。 口移しでくれた水が、少しだけ喉を潤していく。 「目の焦点が合ってないな」  と、先生は僕の目を覗き込むようにして、苦笑した。 「先生、早く……」  先生の言葉の意味すら理解できない程に、もう我慢が出来なくなっている僕は、自ら腕を先生の首に絡めて、次を催促する。 「……早く、何をして欲しいんだ?」  意地悪な言葉も、甘い愛の囁きに思える。 「早く、先生のが欲し……、僕の中を先生で一杯にして欲しい」  そうして、ひとつになって溶け合うような、あの感覚を味わいたいんだ。  先生は、啄むように何度もキスをくれて、「いいよ」と甘く囁いた。  僕の足を抱え上げ、先生の熱い切っ先が宛てがわれただけで、そこは期待にヒクついている。  とろとろに蕩けさせられている内壁は、侵入してきた先生の形を探るように纏わりついていく。  硬い灼熱の杭を中まで全部埋め込んでピタリと肌が合わさると、「伊織の中に俺がいるのが分かるか?」と、確かめるように聞いてくる。 「うん……」  下腹部に触れながら、先生を見上げると、中で先生のが脈打って、更に膨れるのを感じた。 「……伊織……」  声と共に、熱い吐息が落ちてきて、頬にかかる。  そのまま首筋や胸の尖りに舌を這わせながら、先生はゆっくりと律動を始める。 「ん……あ……っ、……」  熱くなり過ぎている身体は、貪欲に快楽を呑み込んでいく。  濡れた舌の感触に身体を震わせると、中の肉襞は、もっと奥へと誘うように収縮し、先生を締め付けた。 まるで身体の中でひとつに混ざり合おうとしているみたいに。  先生が腰の動きを早めて、感じるところを何度も的確に突かれると、またすぐに限界が迫ってくる。 「――んあっ、あ……、も、イきそう……」  底のない快楽の渦に巻き込まれそうで、思わず伸ばした手に先生が指を絡ませてくれる。  見上げると、先生は、苦しそうに切ない表情で…… 目を閉じていた。  ――いつも、僕がそうするように。

ともだちにシェアしよう!