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 ―― 陽炎(30)

 *****  カレンダーは6月に入っていて、雨の多い鬱陶しい日が続いている。  こんな時期だから、毎年、体育祭の当日は、天気の良い日があまりないのに、秋に行われる文化祭よりも、学校も生徒も力を入れている。  体育祭は、一年から三年までをクラスごとに縦割りにして、四つのチームを結成して行う。  トーナメント方式で行われる騎馬戦は、全校生徒が四人一組で騎馬を組み、三年生を中心として四分間の熾烈な戦いを繰り広げる。  男子校の全生徒が参加するわけだから、土煙を上げてかなりの迫力になる。 これがプログラムの一番最後で、一番盛り上がる。  なんでこんなに体育祭が盛り上がるのかは、一応の理由があるみたいなんだけど。  うちの高校には、系列大学への校内特別推薦入試があって、それが九月に行われる。  高校はそうでもないけど、大学は結構人気があって、特別推薦枠に入ることが出来なければ、一般入試で合格するのは難しい。  三年生にとっては少ない推薦枠を取ることができるかどうかの最後のチャンスが、今度の期末の結果次第という事になる。  だから中間と期末の間のこの時期、かなり殺伐としていて、体育祭は、その鬱憤を晴らす為に盛り上がるんだと、凌から聞いたことがある。  ――そんな体育祭になんて、出たくないんだけど。  一年から三年までの縦割りだから、三年生達に迷惑をかけないようにって、一年、二年は、各種目の練習を、それぞれのクラスで自主的にする。  僕は、何か理由を付けて、練習も休もうと思っていた。  なのに……早速のクラスでの自主練に、早朝から無理やり慎矢に引っ張り出されてしまった。  憂鬱な僕と違って、慎矢の目の輝きときたら、まるで好きな遊びをしている時の子供みたいだ。 「いいか、最前列の騎馬は、極力相手との接触を避けて後ろに回り込んで、前後から挟み撃ちにするぞ」  自分から率先してクラスを仕切って、自分で考えた騎馬戦フォーメーションなんてのを、皆に説明してる。  僕は騎手で、騎馬の先頭は慎矢。  ――慎矢は気付いているのかな。  後ろの騎馬役になっている、多田と脇坂の不満そうな顔に。

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