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―― 陽炎(33)
こういう場面は今迄も何度もあったから、二人が何をしたいかなんて聞かなくても分かる。
そう、大した事じゃない。だけど時々、嫌になるんだ……自分のことが。
あの夏の日からずっと、同じことの繰り返し。
こんなことをしていても、何も変わらないのに……。――父さんが振り向いてくれるわけでもないのに! 分かっているのに、どうしてもこうなってしまう自分。
慎矢がせっかく、僕をクラスに溶け込ませようとしてくれても、今迄の自分がしてきたことは、そう容易くリセットできなくて。 そんな自分にウンザリしてるんだ。
目の前に立っている二人の間をすり抜けて、出口へ戻ろうとする僕の腕を、多田が強い力で掴む。
「おい待てよ。何シカトしてんの」
「もう用事は済んだでしょ? 放して」
「用はまだ済んでないんだよ!」
言われた瞬間、身体が引き戻され、積み上げられたマットの壁にぶつかって背中に軽い痛みを覚えた。
「……っ」
ぶつかった衝撃で、高く積み上げられていたマットが、ゆっくりと横へ雪崩のように崩れてしまった。
「なあ、本当に騎馬戦に出るつもりなわけ?」
崩れたマットに気を取られていると、至近距離に迫ってきた多田に見下ろされる。
質問に答えずに、目を逸らせば、「去年は出なかったくせに」と、忌々しそうな声と舌打ちが聞こえてきた。
「なあ、知ってるか? 騎馬戦の騎手は、上半身裸なんだぞ?」
「そんなの聞いてない」
「服を掴まれて頭から落ちたり、首が絞まったりしないように、安全対策だってさ」
去年、体育祭に出てなかったから知らないだけだろ? と、多田は嘲笑いながら付け足した。
「なんなら、そこの跳び箱を騎馬の代わりに使って、服脱いで練習してみれば?」
「それとも脱げない理由あるのかな」
「あはは、身体中キスマークだらけだったりしてな」
「ほら、脱げよ」
馬鹿らしくて相手にするだけ時間の無駄だ。
「そこ、退いて」
もう一度二人の間をすり抜けようと試みたけれど、今度はさっきよりも乱暴に腕を掴まれ、力任せに引き戻されて視界が回る。
背中から崩れたマットの上に倒されて、灯り取りの窓から一条射し込む光の中に、埃や塵が舞い上がる。
すぐに多田が僕の上に馬乗りになり、「俺が脱がせてやるよ」と、笑いながら体操服に手を掛けようとする。
「やめ……っ! ふざけ……んんっ」
脇坂の手に口を塞がれて、抵抗の声を奪われる。
かろうじて動かせる手足をバタつかせると、一旦落ち着いてキラキラと静かに浮遊している光の中の物質が、また渦を巻き始める。
「暴れんなよ、脱がしてやるって言ってんだ」
二人がかりで押さえ付けられて、体操服のシャツを捲りあげられ、敢え無く脱がされてしまう。
「……おい……見ろよこれ……」
馬乗りになっている多田が、上から僕を見下ろしてコクリと喉を鳴らした。
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