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 ―― 陽炎(34)

 薄暗い空間に窓から射し込む光が、僕の貧弱な身体に届いている。  塵や埃が漂う中で、二人が驚いたような顔で、僕の肌に視線を落としていた。 「……はっ、驚いたな。本当にキスマークだらけじゃん……」  からかうような言葉なのに、その声は低く掠れてる。  多田か脇坂か分からないけど、またコクッと唾を呑み込む音が聞こえてきた。 「……これ全部、慎矢が付けたのか?」  ――慎矢? 何を言ってんだろ、こいつら。慎矢とは、あの雨の夜の一度きりなのに。 「馬鹿、どうせ慎矢だけじゃないんだろ? こいつ、誰にでも抱かせるって噂じゃん?」  全身に残っている痕は、全部佐々木先生が付けたものだ。 「いつも三年の速水さんがベッタリくっついていたから、皆、怖くてお前のことを遠まきに見てたけど、最近つるんでないよな」  もう速水さんとは関係ないんなら、俺達がヤッても問題ないよな。 と、二人はお互いの意思を確認するように顔を見合わせた。  どうやら僕の意思なんてのは、どうでもいいらしい。  多田が、僕の体操服のズボンを引き摺り下ろそうとする。 「んんっ!」  その手を掴んで睨み付けても、「誰にでもヤらせてんだろ? 俺達にもヤらせろよ」と言って、僕の手は頭側に座り直した脇坂に引き剥がされて、マットに縫い止められる。 だけどそのおかげで、塞がれていた口が解放された。  二人の表情には少しの余裕も見えない。  焦ったような手付きで、体操服のズボンを擦り下ろされる。 唯一動かせる足をバタバタさせても無駄だった。  僕は、なんて非力なんだろうと、今更に思う。 「――童貞なんかと、ヤる気ない」  体力では到底敵わないから、つい口に出してしまった言葉は、ただ二人を怒らせて火に油を注ぐ結果になってしまう。 「煩い! 黙ってろ!」  馬乗りになっている多田の、上から思い切り振り降ろされた拳が、鈍い音をさせて顔を直撃した。  目の前に火花が飛び散って熱い痛みに襲われると、もう抵抗する気も起こらなくなる。 (――ああ……早く終わらないかな……)  慌ただしい衣擦れの音がして、多田は動かなくなった僕の脚を開き、いきなり熱い塊を後孔に押し付けてくる。 (――本当にいきなりするつもりなんだ)  解す事なんて頭にない様子で、グイグイと捩じ込もうとする。  入り口に切れたような痛みが走ると、あの夏の夜空に打ち上げられた花火の光景が脳裏を過ぎった。

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