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 ―― 陽炎(35)

(――あの時と似てる)  二人の顔が、あの時の男達とダブって見えた。  あの夜から、自分の周りが変わったと思っていたけど、本当に変わったのは、周りじゃなくて僕。  あの時、父さんが僕を抱いたのは、あの夜のことを僕に忘れさせようとしていただけで、僕を愛しているからじゃない。  それでも何度も身体を重ねたのは、母さんが死んだあの日から、父さんは僕に母さんを重ねて見ていたから。  その事から目を逸らして、気付かないフリをして、寂しさを誤魔化す為に快楽だけを求めていた。  あんなに憎んでいたはずの祭りの夜の男に、僕は自分から逢いに行って……。 今の状況を作り出しているのは、紛れもなく自分の所為なんだ。 そしてきっとまた、大切に想うものをひとつずつ失くしてしまう。 「はっ、きっつ……」  先端部分が挿ったところで、多田が苦しそうに息を吐く。 それでもまだ、力任せに腰を進めてくる。 何も濡らされていない入り口が引き攣るような痛みに、余計に身体が強張った。  その時、体育倉庫の重い扉が開く音がして、外の明るい光が部屋の奥まで届いてきた。 「おい! そこで何してるっ……!」  倉庫に置いてあるボールのカゴや、移動式ゴールを押し退けて、誰かが駆け込んでくる。 道具がぶつかる音がガシャンガシャンと、コンクリートの壁にこだまするように激しく響いた。  慌てて僕から離れて立ち上がろうとする多田を、走ってきた誰かが体当たりで突き飛ばして、彼の身体が視界から消える。  多田の代わりに僕の視界に見えたのは、慎矢だった。 「何してんだよ!」  ふり絞るように叫んだ、その悲痛な声に、胸の奥が締め付けられる。 「何、怒ってんだよ、ちょっと遊んでただ……っ」  突き飛ばされて尻餅をついている多田が最後まで言い終わらないうちに、慎矢が殴りかかっていく。 「おいっ、やめろよ! 慎矢っ」  多田に馬乗りになって、もう一発殴ろうとしている慎矢を、脇坂が後ろから羽交い締めにして止めた。  三人の荒い息遣いしか、今は聞こえなくなった。 「何なんだよ……お前だって、散々ヤらせてもらったんだろ?」  慎矢の身体を押し退けて、多田が埃を払いながら立ち上がって僕の方へ視線を向ける。 それに遅れて、慎矢が肩越しにゆっくりと振り返った。

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