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第六章:希望(1)
――『希望』
導くような朝の光が、小さな希望に思えるなんて馬鹿げてる――
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窓が閉められた部屋に、エアコンの送風口から流れ始めた冷たい風が、熱くなった身体を掠めていく。
父さんは、後孔を探るように指先を動かしながら、逆の手で器用に肌蹴たシャツを肩から脱がせて床に落とし、露わになった肩に歯を立てる。
「……っ」
痛いのに、ジリジリと痺れる快感に、僕の淫らな身体はすぐに反応してしまう。
「彼は、どんな風に愛してくれた?」
「……そんなこと……してない」
「一度も?」
そう訊かれて、僕はすぐには答えることができなかった。
「…… 一度も」
一瞬開いた間に、肩口からを見上げてくる鋭い瞳に視線を搦め捕られて足が竦む。
「そうやってすぐに嘘を吐くのは、感心しないね」
「ぃ……ッ」
罰だと言わんばかりに胸の尖りをキツく抓られて、僕は声にならない悲鳴をあげた。
――愛されてなんてない。
慎矢と肌を重ねたのは、あの雨の夜の一度きりだった。お互いに愛なんてなくて、ただ快楽だけを求めて。だけど、たった一度のあの夜を、無かったことにはできなくて、吐いてしまった嘘は父さんには容易く見破られてしまう。
中途半端にずらされていた下衣を完全に剥ぎ取られ、「後ろを向きなさい」と命令される。抗うことなく僕は父さんに背を向けて、壁に両手を付いた。
「もっと足を開きなさい」
閉じていた膝の間に父さんの脚が割り入り肩幅以上に開かされて、しなやかに動く指先がうなじから背中を通り過ぎ、辿り着いた双丘を両方の手で掴んで左右に開く。
肌にかかる呼気が背中から腰へと下り、父さんが背後で跪いたのが分かる。
掴んだ腰をぐっと引き寄せられ、壁に手を付いたまま、腰だけを突き出した姿勢にされて……、
「……っ」
窄まりを至近距離で眺められていることに、緊張から身体が戦慄く。
「私が留守にしている間、此処に何人の男を咥え込んだ?」
「……っ、して……ない、あ……ッ」
父さんが居ないと、僕が我慢できないことも知っている筈なのに、まるで確認するように熱くてぬるりとした感触が、窄まりをなぞるように動いてから中へ侵入してくる。
入り口辺りで蠢く感覚に、もっと奥へと誘うように中が勝手に収縮する。
「そうやって、いつも誘惑しているんだね」
後孔から顔を離して、優しい声音で言われた言葉には、どこか冷たいものも見え隠れしている。
「――そんなこと……っ」
誘惑なんてしていない……つもりでも、いつも気が付けば結果的にはそうなってしまう。
でも、違うんだ。僕が本当に欲しいのは、父さんだけ。 できることなら、父さんの心が欲しいだけなのに。
だけど、言い訳を赦さないとでも言わんばかりに、再び長い指を後孔に埋められて、言葉には出来ずに息を呑んだ。
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