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 ―― 希望(13)

   僕の顎を捕らえた指先が首筋をなぞり、シャツの前立ての隙間から滑り込んで素肌を擽るように動く。 「……あ……」  そうされるだけで腰の奥深くに熱が生まれるのを感じて、僕は反射的に両手でその手を掴み、唇から漏れる息がもう乱れているのを隠そうとして息を呑む。 「感じ易い身体だ。だが、こんな風にその身体に快楽を教え込んだのは、私だ」  そう言って、僕の手を振り解き、しなやかに動く指先がシャツのボタンを外していく。  ズボンも下着も全て剥ぎ取られ、全身に散りばめられた所有痕に、父さんの焼けるような視線が注がれただけで感じてしまう。 「……あっ、ぁ」  胸の尖りのすぐ側をキツく吸い上げて、父さんはそこにまた新しい所有の証を付けた。 「こんなに私の跡を付けているのに、よく他の男に逢いに行けたな」 「……あ、いに行ったんじゃ……ん……ッ」  父さんは僕の身体を部屋のドアに押し付けて、今度は脇腹に唇を寄せてまた新しい証を残す。 「沙織もそうやって、よく嘘を吐いた」 「――っ、そ、んな……ことっ」  ――母さんは、嘘なんかつかない人だったのに……。  足を開かされ、内股に舌を這わされて、またチクっとした小さな痛みと共に新しい証が増えた。  その場所が熱を持ったように疼き始めてガクガクと脚が震えて、立っていることができずに、ずるずると背中を滑らせて床にへたりこんでしまった。  上目遣いで見上げると、そんな僕を見下ろす漆黒の瞳に視線を搦め捕られた。  父さんは立ち上がり、ベルトを緩め、前を寛がせていく。僕の目の前で取り出されたそれは、もう既に鎌首をもたげている。  何も言われなくても、僕は自然にそれに手を伸ばし、唇を寄せた。  先端に口づけて、たっぷりと唾液を含んだ舌で舐めて、咥内へ迎え入れて、夢中でそれを愛撫して、静かな部屋に唾液の絡まる音を響かせた。 「もういい」  咥内から唾液に濡れた熱棒が出ていき、父さんに腕を引き上げられて、僕はふらふらと立ち上がる。  父さんは、ふらつく僕の片脚を腕に引っ掛けて持ち上げると、唾液で濡れた先端を開いた脚の間に押し当てる。 「あっ、ん、んっ」  全く慣らしていない後孔に、下から熱い切っ先が身体を引き裂くように入ってくるのと同時に、唇をキスで塞がれる。  この痛みは、きっと罰なんだ。  片脚だけのムリな体勢で突き上げられながら、僕は父さんの首に両腕で縋りつき、その罰を受け入れた。  合わさった唇の隙間から漏れる熱い吐息と、唾液の絡む音が混ざり合う。  頭の芯が蕩けるような官能的なキスを交わしながら瞼を開けると、父さんの情欲に濡れた瞳と目が合った。  ――父さん……  母さんは、父さんを愛していた。 『伊織、嘘はダメよ』  僕にもいつもそう言っていた。だから母さんは嘘なんてついてない。  僕も母さんも、父さんだけを愛しているのに。 「そうやって私を見つめる瞳は沙織とそっくりだ。そうしてお前も、私から逃げることを考えている」 「――ちが……ッう」 「違わない……、どうやってあの男の所へ逃げるか考えているんだ」  そう言うと、グッと突き上げられて、片脚立ちのつま先が浮きそうになる。 「ああっ、あ……っ」  父さんの言葉を否定しなければいけないと思うのに、段々何も考えられなくなっていく。  最初は痛かったはずなのに、最奥を突き上げる熱杭に快感を覚え、体内が熱く蠢き父さんをきつく締め付けている。 「……あの雨の日のように」  ――あの雨の日? 母さんが交通事故に遭った日のこと?  飛びそうになる意識の中で、僕は父さんの言葉を反復する。  堪える間もなく弾けそうな絶頂を逃そうと、後頭部を背後のドアに擦り付けた。  父さんは僕に視線を合わせながら身体を揺すり上げ、熱い杭が僕の好きなあの場所を何度も抉る。 「何故、沙織もお前も、私よりあの男を選ぶんだ」  ――え?  仰け反らせた喉に、父さんが指を絡めてきて、 「――父さ……ッ」  喉に食い込んでくる指先に息が詰まり、僕の声はそこで途切れてしまった。

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