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―― 希望(18)
窓を打ち付ける雨音が、急に大きく聞こえてきた。
――まるで夢の続きみたい。
あんなに天気が良かったのに、いつから降り始めたんだろう。今が夢なのか現実なのかも、きっと僕には区別がついていない。
そんな事を考えながら、僕は父さんの口づけに応えた。
重ねた唇の隙間から挿し込まれた舌は、唇の冷たさと違って甘い熱を持っていた。
熱の籠った舌がゆっくりと歯列をなぞり、上顎を撫で、僕の舌を絡め取って吸い上げる。甘く、どこまでも甘く。
「……っ、ん……ふ……」
髪を撫で、頬を擽り、うなじを滑っていく指に、僕は熱い吐息を零した。
その指はまるで、『愛している』と、囁くみたいに優しく動く。
――愛している、沙織……と。
僕が愛されている訳でもないのに、身体は歓びに満ちていくんだ。たとえ誰かの代わりだとしても、必要とされて、求められていることが嬉しい。
父さんの背中を抱きしめたいのに、枷に捕らえられた腕がもどかしく、ジャラッと小さな音を立てる。
唇が首筋に下りて、熱い舌先が喉を撫でる。そこは、父さんの指に締め付けられたところだった。
「……すまなかった」
父さんはそこに何度も何度もキスをくれて、最後にきつく吸い付いた。
ちゅうっと、吸い上げる音が小さく鳴る。
もっと、たくさん父さんの痕を残してほしい。そうされるのが嬉しいから。こんな僕でも、生きていて良いのだと思えるから。
遠くに響いていた雷鳴が近づいてきた音に、身体がピクリと震えた。
その音に耳を塞ぎたくなる――あの夢の続きは見たくないから。
怖くて父さんにしがみつきたいのに、それは許されなくて、動かそうとした手首が鎖に引っ張られる。
「ん、ぁあ、父さ……ん」
背中を反らせて、戒められた手首を必死に抜こうともがく僕の胸を、宥めるように掌で押さえて、鎖骨に舌が這わされる。
ジャラジャラと、金属の擦れる音が大きく響いた。
「……父さん、おねがっ、これ外して……」
言いかけた僕の声を阻むように、青白い稲光が仄暗い部屋に射し込んできた。
その光は、僕に思い出したくない光景を、また見せる。
「――いやーーッーー」
僕の叫ぶ声と、耳をつん裂くような雷鳴が響いたのは、ほぼ同時くらいだった。
声は父さんの唇に塞がれて、長く尾を引くような雷鳴の余韻の音だけが、僕を追い立てるように耳に届いていた。
その音が漸く落ち着いた頃、階下でインターホンの音が鳴った。だけど父さんは、キスを止めようとはしない。
唇が僅かに離れるキスの合間に、
「……だれか、来たよ」と、僕が吐息混じりに言えば、
父さんは、「放っておけばいい」とだけ答えて、またすぐに深く唇を重ねた。
階下でパタパタと、タキさんが走る音が聞こえてきた。
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