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―― 希望(24)
ミスズ……。
タキ ミスズ……。
タキさんは、いつから家に来てくれていたっけ。
僕が物心ついた頃には、もう家族と同じように思ってた。
父さんとは、いつから……? 母さんは、この事を知っていて……それで?
違う、違う、母さんは自殺なんかじゃなかった。あれは確かに事故だったんだ。
いくら考えてみても、さっきから壊れたみたいに涙が止まらない。
花火が打ち上げられる間隔が、短くなってきてる。
続けざまに上がるのは、ラストが近いから。
どうやって家を出てきたのか、家の近くのあの階段を駆け下りて、ただ闇雲に走って。
気が付けば、僕は祭りで賑わう人混みの中、あの川沿いの桜並木の遊歩道を歩いていた。
行き交う人の流れの中で、ふらふらと身体が行ったり来たり。目的など何もなく、誰かの肩にぶつかりながら、ただ彷徨ってる。
――『お前と居ると、気持ちが安らぐ』
――『……お前は、沙織には似ていないから』
何度も父さんの言葉が頭の中に聞こえてきて、胸の奥が潰れたみたいに痛い。
僕の存在が父さんを苦しめていたような気がして。
だから父さんは、家に帰って来なくなったんじゃないかって。
僕は、母さんの代わりにもなれないんじゃないかって。
じゃあ僕は、何の為に生きていけばいいの。
周りの人達が皆、夜空に広がる花火を見上げながら歩く中、僕だけは顔を上げることが出来ずにいる。
視界にあるのは、知らない人達の足元ばかり。
話し声や、笑い声。それらも、打ち上げられる花火の音にかき消されていく。
耳を塞ぎたいのに、腕を動かす気力もない。
打ち上がる音が連続に聞こえて、周りから上がる感嘆の声につられて顔を上げると、美しい花火が夜空を覆い尽くしていた。
最後に、一際大きい大輪が広がって、夜の空へ吸い込まれるように消えていくと、どこか物寂しい。
僕は、どこへ消えればいいのか分からない。
花火のように消えることもできないし、もう行く当てもない。
まだ花火の余韻が残る人達と、駅方面へ帰っていく人達の流れが交差して、さっきよりも遊歩道が混み合ってくる。
足が止まってしまった僕に誰かの肩がぶつかって、「ボーッとしてたら危ないぞ」って注意されて、方向も定まらずにまた歩き始める。
無意識に見ていた視線のずっと先に、背の高いよく知った顔がチラリと見えて、また立ち止まってしまう。
――慎矢……。
人混みの隙間から見え隠れしている慎矢の表情も、はっきりと見えた。隣にいる誰かと、楽しそうに話をしながら笑っているのが。
今日の約束を駄目にしたのは僕だったから、悪いのは僕なんだから、慎矢が他の誰かと花火を観にきていても、それは仕方がないことだった。
(なんだ……慎矢、彼女ができたんだ)
寂しいと思ってしまうのは、多分、今の僕が独りぼっちだから。
でも、心のどこかで良かったと思ってる。少し複雑だけど。
慎矢のいる方向へは行かずに、僕は人混みに隠れるようにして逆の方向へ足を進めた。
慣れない人混みに酔ったみたいで、少し気持ちが悪い。
そういえば喉が渇いていたことを思い出したけど、財布を持っていなくて、ポケット中に小銭がないか、探している自分に笑ってしまう。
こんな時でも、生きてることを身体は思い出すんだね。
その時、不意に僕の名前を呼ぶ声が、どこからか聞こえてきた。
「――伊織?」
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