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―― 希望(26)
「……僕が?」
と訊き返すと、隆司は、うん、と無言で頷いた。
意味が分からない。なんで僕がそんな面倒なことしないといけないの。
「知らない、僕じゃない」
「だけど凌は、伊織しかいないって、言ってたぞ」
凌と最後に会ったのは、体育倉庫だった。あの時、確かに凌は煙草を吸っていた……。
――『校内特別推薦受けるんなら、こんな所で煙草とか吸ってたらダメなんじゃないの』
『お前がチクらなきゃ、バレないよ』――
そんな会話をしたけれど、だからって、なんで僕だと思うのか、訳がわからない。
「お前、学校来なくなったし、携帯にも連絡つかないしで、凌はお前だって疑ってるんだ」
そのせいで、停学になった上に、推薦も受けられなくなったんだぞと、隆司は続けた。
「僕は関係ないよ、もう、放して」
推薦がダメになったのも、停学になったのも、凌の責任じゃないか。
「お前じゃないかもしれないけど、関係ないことないだろ? ダチだろ?」
――友達? 友達って何? 信頼できない関係のこと?
「友達なんかじゃない!」
叫ぶようにそう言って、掴まれた腕を力任せに振り解き逃げようとすれば、今度は手首を掴まれて背中に回すようにを捻り上げられた。
「ッ……うっ」
「まあ、待てって。伊織を見つけたら、連絡しろって言われてんだ。違うんならちゃんと話せよ、凌と。逃げるなよ」
そう言って、力は少し緩めてくれているけど、隆司は僕の腕を背中で掴んだまま、携帯を操作する。
「……ああ、凌? 今さ、ここに伊織がいるんだけど……うん、ちょっと待って」
ほら、と言われて、携帯を耳に押し当てられた。
『――伊織か?』
凌の声が聞こえて、僕は「うん」とだけ返した。
『話があるんだ。今から俺の家に隆司と一緒に来いよ』
落ち着いた声だけど命令口調の言葉。僕は応えずに無言のまま数秒が過ぎる。すると痺れを切らしたのか、隆司が僕の耳から携帯を離して、僕の代わりに凌と会話を続けた。
「……もしもし? ああ、うん、分かった。じゃあ今から連れてく」
そう言って通話を切った隆司は、僕の手首をしっかりと掴み直して、「行くぞ」と言って歩き出した。
凌に身に覚えのない疑いをかけられていて、それで今から凌の家に行くんだっていうことは分かっているけれど、それで話をして何かが変わるんだろうか? それで凌は僕のことを信じるんだろうか。
隆司の手を振り解く気力は、もう残っていなくて、僕は引っ張られるまま従いていくしかなかった。
頭の中は他のことばかり考えている。
どうせ家には帰れない。父さんとタキさんのことを、気付いていないふりなんて、僕には出来そうにないんだから。
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