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 ―― 希望(29)

「早く来いよ。伊織」  煙草を灰皿に押し付けながらもう一度言われて、僕は素直に足を進めた。 「凌ぉ、女はぁ? 女呼べよー」 「いいんだよ、コイツが俺の女だから」  一斉に笑い声が上がる。  何がそんなに愉しいのか、男達も凌も面白そうに笑っていた。 「どうした? 突っ立ってないで座れよ」  凌に手首をぐいっと引っ張られた拍子に、僕はバランスを崩し、床に座っている五人の男達の方に向き合う形で凌の膝に座らされた。  また笑い声が上がる。 「飲むか?」  僕を膝に座らせたまま、目の前のテーブルに置いてあった缶ビールに、凌が手を伸ばした。  ビールは好きじゃない。だけど喉が渇いていたから、差し出された缶ビールを受け取り、既にプルタブが上がっている飲み口に唇を付けた。  飲み残しのビールは、気が抜けていて生ぬるい。だけど少しでも喉を潤したくて一気に飲み干した。 「どうした? 今日は随分と素直だな」  空になった缶を受け取りながら、凌は僕の顔を覗き込む。  唇が触れそうになって、僕は僅かに顔を逸した。 「……別に」 「学校にチクったこと、ちょっとは悪かったと思ってんの?」 「……僕じゃない」  顔を背けたまま、わざと煩わしげに否定してやると、耳元で喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。 「なあ伊織、俺は過ぎたことは気にしない、寛大な男なんだ」  後ろから抱え込むように回された凌の両手が、シャツの布越しに胸から下へと這うように動く。  周りの男達から、囃し立てるような声が上がる。  凌は耳元でくすくすと笑いながら、シャツの裾から両手を潜りこませ、直接肌に触れてくる。  素肌に直接触れてきた手は、すごく熱い。  シャツを胸元まで捲りあげられて、エアコンが効き過ぎている部屋の冷気に、鳥肌が立つ。 「別に怒ってないから、そんなに気にする事はないんだぞ」  凌は僕の耳元に低い声を落とし、耳殻を熱い舌で擽りながら指先で胸の両方の粒を摘み上げる。 「……っ、……」 「思い通りにならないお前も、好きだからな」  耳元で囁いていた声が離れていき、凌はまたテーブルに手を伸ばした。片手で器用にステンレスのシガーケースを開けると、細い煙草を一本取り出して唇に挟む。  そして、先が少し尖っているように見えるそれにライターで火を点けて一息吐き出すと、僕の目の前に差し出した。  スパイシーな甘ったるい匂いが、また鼻を掠めた。

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