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―― 希望(39)
僕は踵を返して、縺れそうになる足を心の中で叱咤しながら出口へ走って行く。
身体は鉛のように重い。
射し込んでくる眩しい光にクラクラと眩暈を起こしそう。だけどその光は、まるで僕の進むべき道を示してくれているように見えた。
自動ドアが開いて、外に立っている男が大きく腕を広げて駆け寄ってくる。
――なんでこの人が此処にいるんだ。
そう思ったけど。
だけど、その手は確かに僕に差し延べられていて、――遠慮なんかしないで、その手を掴んで引き上げてもらえよ――と、男の言葉が頭の中でリフレインする。
僕にはもう、何も無かった。
全て失ってしまったと思っていた。
――『小さくてもいいから希望が見える方向に行けよ』
男の言う希望なんて、どこにも見えないと思ってる。
僕を導くような朝の光が、小さな希望に思えるなんて馬鹿げてる。
だけど………僕は無意識に必死に手を伸ばしていた。光の中に立つその人へ。
建物の中と外の温度差に、身体はもう悲鳴を上げていて、眩暈を覚え視界が揺らぐ。
伸ばした指先が空を切り、地面へ崩れ落ちそうになった瞬間、届かなかった筈の手を引っ張られて、身体が上に引き上げられる。
しっかりと受け止めてくれた手は、大きくて暖かい。
もう立っていることが出来なくて、僕はその人の腕の中へ倒れ込んだ。
瞼が重くて目を開けていられない。
でも、さっきまでは、目を閉じてしまったら、深い闇の中に引き摺りこまれそうで怖いと思っていた筈だったのに、今はなんだか、久しぶりに安心して眠れるような気がしていた。
遠のく意識の中、昔の記憶が蘇る。
――『あんま他人を信じるなよ』
そう言ってニヤリと笑う男の顔を思い出して、僕はクスっと笑い声を零した。
アンタ、言ってることがめちゃくちゃだよ。
ああ……、あの男のことを、僕はあの頃なんて呼んでいたのか、やっぱり思い出せない。
――名前、訊いておけば良かったな……。
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