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―― ESCAPE(4)
そして、学校までの石畳の歩道を歩く彼らの後ろ姿を見つけた。
「ちぇー! さっきのおっさん、高そうなスーツ着てたわりには、シケてんなぁ」
生徒のうちの一人が、一万円札をぴらぴらとさせてボヤいているのが聞こえてきた。
――あの男から金を巻き上げたのか? と、その時初めて気付く。
だけど、確証は無かった。
彼らの会話を後ろで聞きながら、 俺は落胆していた。
あの現場を見ていたし、今の会話も聞いていたのに、それ以上踏み込むのを理由を付けて避けようとする自分に。
そうして、鈴宮伊織との最初の出会いは、最悪なイメージを残した。
偶然にも自分の受け持つクラスだった彼は、今まで経験した事がないくらいに、扱いにくい生徒だった。
人との関わりを避けるところがある彼に、無理に歩み寄る必要もない。問題さえ起こさないように見守るだけで良いと、前と同じように考えようとしていたけれど。
それでも、あんな眼差しをする鈴宮のことが気になって、どうしても放っておくことが出来なかった。
******
大谷が連絡してきた駅で降りて、教えられた通りの道を走っている間、嫌な予感ばかりが勝手に頭を過ぎる。
最後にあの部屋で見た彼の状況からして、夜遅くに家の外に出るなん考えられない。……父親と何かあったんだろうか。
大谷は、夏祭りで鈴宮が独りでフラフラと歩いているところを、いつも彼と一緒にいた上級生の一人、井上隆司 に無理やり引っ張られて、連れて行かれたと言っていた。
もう一人、鈴宮といつも一緒にいた速水凌 は、確か喫煙で停学になったと聞いている。
しかし、大谷の言った場所は二人の住んでいる場所ではない。
今ひとつ状況が掴めないから、余計に嫌な予感がしてくる。
大谷が教えてくれた交差点を過ぎて、目印の郵便局が先に見えてくる。
この辺りのはずだと、目を凝らして先を見やれば、街路樹の影で座り込んでいる大谷を見つけた。
彼の視線の先は、道路を隔てた向こう側の黒っぽい建物。
「――大谷」
駆け寄って声を掛けると、一瞬驚いた顔で振り向いた彼は、俺だと認識すると心底ホッとしたような顔をした。
「……先生、良かった来てくれて」
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