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―― ESCAPE(14)
縋り付く俺を、引き剥がそうとする男。
「この野郎! 放せよ!」
入り口の前で、揉み合いになる。
「そんな必死なフリすんな! どうせ生徒を心配したってポーズなんだろ? 自分の受け持つ生徒が問題を起こしたら困るから迎えに来ただけなんだろ?」
「――違うっ」
男が腕を大きく振り翳した。
――殴られても、この手は絶対に放せない。
「鈴宮くんは、学校に退学届を出しているんだ。だから学校だとか、俺の体裁なんて関係ないんだ」
俺はそう言いながら、固く目を瞑り、歯を食いしばる。だけど覚悟をした衝撃がくる事はなかった。
「じゃあ、なんで伊織を迎えに来たんだよ」
頭の上から聞こえてきた声が、さっきまでの威すようなものから落ち着きのある声に変化した気がして、俺は目を開けて男の様子を窺いながら言葉を続けた。
「担任だったのに、俺は彼に何もしてやることが出来なかった。だけど今は、担任だからとか、そういうのじゃなくて……」
――そうだ…そういうのじゃなくて。もっと違う想いが今の俺を突き動かしている。
「鈴宮くんは、俺のことを鬱陶しいと嫌っているかもしれないが、俺は教師としてでなく、彼と関わった一人の人間として、放っておけないんだ」
関わった生徒が、少しでも俺と出会って良かったと思ってもらえるような教師になりたい。それが俺の目標だった。
だけど、そうじゃない。
「ただ、ほんの少しでも関わった生徒の未来を、こんな俺でも守ってやることが出来るのなら……」
出会って良かったなんて、思ってくれなくても良いんだ。
「学校を辞めるから、関係ないだなんて、見捨てることなんてできない。いくら鈴宮が、俺の助けなんて必要ないと言ったとしてもだ」
じっと黙って俺の話を訊いていた男の真剣な瞳と目が合った。
「……ふん、お節介な先生なんて、珍しくて笑えるな」
そう言って、男は目元を緩ませた。
「だけどな」
と、男は一旦言葉を区切って、しがみ付いた俺の手を払い退ける。
「今、部屋に踏み込んだとしても、どうせお前なんてボコボコにされて終わりだ。何も変わらないし、あいつを連れ出すなんて無理だね」
「――でも」
それでも何も行動せずに、ただ朝が来るのを待つなんて出来ないと、続けようとした時だった。
エントランス奥のエレベータの表示が上の階から下へ降りてきていることに気が付いた。
俺の目線に気が付いて、男が振り向いた時には、もうエレベーターは一階に着き、扉が開く。
中から出て来たのは……鈴宮じゃない。
複数の男達の騒がしい声は、エレベーターの扉が開く前から、エントランスの外にいる俺達の立っている位置まで聞こえるほどだった。
一人、二人……中から出てきた男達は、全部で五人だ。
年は、鈴宮達と同じくらい見える者から、二十歳過ぎくらいの者もいる。
かなり酔っているのか、足元も覚束ない様子で、大声で何かを喚きながら此方へ歩いてくる。
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