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 ―― ESCAPE(15)

「あっれぇ? 倉田ちゃん、どうしたのぉ? そいつ誰?」  五人のうち一番年長者らしい二十代の男が、俺と男の顔を交互に見ながら話しかけてきた。 「なんか問題でもアリ~? 俺ら加勢してやろうか」  そう言うと、その男は何が面白いのか、けたたましい声で笑い始めた。  一人が笑い始めると、他の四人もつられて同じように笑い始め、静まり返った夜の街に男達の狂ったような声が響き渡る。 「……いや、こいつ俺の知り合いだから」  そう嘘を吐きながら、男は俺を親指で指し示した。 「なぁんだ。ちょっと暴れたい気分だったのになぁ」  何が可笑しいのか、五人はひとこと何かを言うたびに、笑い声をあげる。 「あの、凌さんは……?」  男は、俺のことを自分の背後に隠すように一歩前に出て、話題を変えようとしているようだった。  五人の関心を俺から逸らせようとでもしているみたいに。 「アイツな、急に機嫌悪くなっちまってさ~。ムカつくったらないわ」  二十代の男がそういうと、他の者たちは腹を抱えて笑いながら、口々に部屋での出来事を我先にと喋り始める。 「まあでも、俺ら、じゅーぶん楽しませてもらったし、文句ねえけどな」 「そーそ、倉田ちゃんの作ってくれたアレ、すげー良かったよ。また手に入った時は呼んでくれよな」 「あの、伊織ってやつ、六人も相手にして何回イったけなぁ」 「そんなの数えられるかよ!」 (……なんだって……?)  男達の会話の中に出てきた名前と、その内容に心臓が掴まれたような痛みを感じた。  それはどういう意味だと、五人に問い詰めようと一歩前に出た俺の目の前に、男が腕を伸ばして止める。 「もう意識も朦朧としてんのに、後ろにも口にも突っ込まれて、悦んで腰振ってたしな」 「元々淫乱なんだろ」  五人は耳を疑うような下劣な言葉を次々に吐き、辺りに笑い声が響き渡る。  その話を延々と大声で続けながら、フラフラとした足どりで去っていく彼らに、堪え切れない怒りが湧き上がってくる。 「耐えろよな。あいつらに向かっていったって、返り討ちに合うだけで事態は何も変わらないだろ」  男の言葉は俺の気持ちを逆撫でて、激しい怒りが身体の奥底から吹き上がる。 「あ、貴方がすぐに俺を通してくれていたらっ……」  気が付けば、俺は男に掴みかかっていた。 「殴りたきゃ殴れよ」  男に言われて、自分が拳を握っていることに気が付く。やり場のない怒りに、身体が震えていた。 「……さっき言ってた、貴方が作ったアレって何なんだ」  なんとか怒りを抑え、掴んでいた男の胸元を突き放し、気になっていたことを問う。  男は俺から僅かに目を逸らし、「……さあ? 憶えてねえな」と、うそぶく。 「言えよ」  口を噤んだ男を睨み付けながら、もう一度答えを促した。  アルコールの類か何かだと思っていた。  だけど、男から返ってきた言葉に、俺は唖然としてしまう。 「……ハーブだよ。頼まれて……少量タバコに混ぜたやつだ」

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