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―― ESCAPE(24)
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『勝手に出て行ったのだから、帰りたいのなら、自分から帰ってくるように伝えて下さい』
鈴宮の父親はそれだけ言って、すぐに電話は切られてしまった。
速水のことや詳しいことは言わず、ただ俺の家にいる事を伝えただけだったが、一人息子が夜中に家を出たのに心配じゃないのか。
驚いている様子もなく冷静な声で、それは鈴宮にとっては残酷な言葉だと思った。
鈴宮の眠っているベッドの縁に腰を下ろし、俺は知らずに溜め息を漏らしていた。
――もう、そろそろ起こさないと。
風呂から出て、すぐに眠ってしまったから、鈴宮はずっと何も食べてない。
だけど穏やかな寝顔を見ていると、目が醒めれば現実と向き合わないといけない鈴宮の気持ちを考えれば、今は少しでも眠らせてやる方が良いのだろうかなんて思ってしまう。
その時、玄関のインターフォンが、静かな空間に鳴り響いた。
――もう来たのか。
部活が終わって、多分、慌てて飛んで来たのだろう。
訪ねて来た相手の顔を思い浮かべて、小さく笑い声を漏らしてしまった途端、後ろでシーツの擦れる音が微かに聞こえた。
振り向くと、鈴宮は横になったまま、ぼんやりと目を開けていた。
「あ、ごめん、起こしてしまったね」
「……誰か来たの?」
起き抜けの掠れた声でそう言って、不安気な表情を浮かべる。
「ああ、多分、大谷くんだよ」
そう答えると、気のせいかもしれないが不安気な影が消えて、微かに瞳の奥に淡い光が揺らめいたように見えた。
でもすぐにまた、その光は陰ってしまう。
「……なんで慎矢が、ここに来るの」
鈴宮は、インターフォンに出ようと立ち上がった俺の腕を掴んで、縋るような瞳で見上げて引き止める。
「どうしたんだ? 俺が知らせたからだよ」
「……嫌だ……。会いたくないんだ」
そう言って、鈴宮は壁側を向いて、肌掛けを頭から被ってしまった。
「鈴宮?」と呼び掛けても、「誰にも会いたくない」と、無機質な声が返ってくる。
だけど今、一瞬だけ見せた淡い光が、それが鈴宮の本心ではないことくらいは、俺にでも分かった気がする。
「……だけどね。君を速水くんの所へ、迎えに来てくれと連絡してくれたのは、大谷くんなんだよ」
そう声を掛けると、「え……?」と小さく声を零し、薄い肌掛け越しに鈴宮の肩がピクリと震えたのが分かる。
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