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―― ESCAPE(39)
「……どうし……よ……、ここが苦しい……」
俺の腕の中で身を縮めるようにして胸を押さえながら、鈴宮は途切れ途切れに言葉を零した。
「胸が痛くて、潰れそう」
「――鈴宮……」
華奢な身体を震わせて、言葉の合間に漏れる嗚咽があまりにも哀しくて、俺は鈴宮をきつく抱きしめていた。
こうすることで、君の哀しみの半分でも、俺が受け止めることが出来ればいいのに。
「父さんの傍にいられるなら……っ、他に何も要らないの……に……」
「うん……」
今の俺には、聞いてやる事くらいしか出来なかった。
「ぼく、は、母さんの代わりで、良かったのに……」
必死に訴えてくるのは、辛い心の叫びだった。
「傍にいられるなら、ずっと閉じ込められたままでも良かったのに」
腕の中の鈴宮は、いつもよりも小さく感じて、どんなにしっかりと抱きしめていても、消えてしまいそうに儚い。
「ぼく、のこと……、手放さないって……っ、のに、…………っ」
だけど、俺のシャツを震える指先でしっかりと掴んでいた。
それは、自分は此処にいると主張しているように思えて、――俺は、ちゃんと君を見ているから。と、その想いを伝えたくて、弱々しい身体を抱き締める腕に力を込めた。
「……だけど……、母さんに似てる……、ぼく、は重荷だった……」
咽ぶように息を詰まらせながら紡いだ言葉が、突然空気を呑むような音がして、そこで途切れた。
「――鈴宮くん?」
腕に抱いていた身体が、ずしりと重くなった。
あまりの精神的なショックとストレスが引き金になって、意識を手放してしまったのだろうか。
抱き上げた身体は、あまりにも軽く、その心はどんなに脆いことか。
寝室に運んで、そっとベッドに寝かせて、涙に濡れた頬を指先で拭ってやる。
「……辛かったな」
額に張り付いている汗で湿った髪を払い除けてやりながら、小さく声を掛けた。
さっき、鈴宮が零した言葉の数々を思い出して、目頭が熱くなる。
目の前の鈴宮の顔が涙で滲んでいた。
「……せんせい」
不意に、掠れた声で呼ばれて、慌てて霞んだ目を擦った。
「気が付いたか?」
見上げてくる顔を覗き込めば、「……どうして泣いてるの」と、訊いてくる。
虚ろな眼差しだけど、話す声はしっかりと落ち着いているように思った。
「何でもない。少しこのまま眠るか?」
そう言いながら、髪を撫でてやれば、鈴宮は小さく首を横に振った。
布団の中から手を伸ばして、俺の手に触れてくる。
「……先生も、僕のこと負担だよね」
「そんなことないよ」
「……担任だから?」
そう訊かれて、一瞬言い淀んだ。
自分の受け持つクラスの生徒だからという思いは、確かにあるけれど、でも……、
「……違うよ」
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