280 / 330
―― ESCAPE(45)
******
微かに聞こえる、小鳥のさえずりに、ゆるやかに起こされた。
薄く瞼を開けて、カーテンの隙間から射し込む光に、――もう朝か……と呟く。
昨夜はあのまま眠ってしまって……。
正確には、俺は夜中に一度目が醒めて、よく眠っている鈴宮をベッドにそのまま残してシャワーを浴びにいった。
結局夕飯も食べずに寝てしまったから、空腹を感じていたけれど、寝室のすぐ隣のキッチンで音を立てたら、折角眠っている鈴宮を起こしてしまうんじゃないかと諦めた。
よく眠っている鈴宮の隣に、スプリングが揺れないようにそっと身体を滑り込ませ横になったけれど、変な時間に起きて、シャワーを浴びたせいなのか、目が冴えてなかなか眠れないでいた。
目を閉じていても、今までの事やこれからの事を考えてしまい、まんじりとも出来ずに、あのまま朝を迎えてしまうんじゃないかと思っていたのに。
――いつの間にか眠ったのか……。
まだ眠い……。今日は休日だから、もう少しだけ眠っていてもいいか……なんて思いながら目を閉じて、再び微睡みに身を委ねかけていた。
――鈴宮は?
ふと、隣に鈴宮の気配を感じない気がして、目を閉じたまま手を伸ばしてみても、触れるのは温度の無いシーツばかり。
「鈴宮くん?!」
慌てて飛び起きて見回しても、鈴宮の姿はこの部屋の中にはない。
寝室のドアを開けても、シンと静まり返ったリビングには、人の気配がしない。
キッチンも、何かを飲んだり食べたりした形跡が無いことに、焦燥感に駆られる。
――もしかしてシャワーを浴びているのかも。
昨夜、あのまま寝てしまって、服も昨日のままだった。
汗も掻いていたし、食べることにあまり執着しない鈴宮のことだから、きっと先にシャワーを浴びているんだ。
……と、俺は自分に言い聞かせていた。嫌な予感に胸が苦しくなるのを抑えようとして。
洗面所に行ってみると、カゴの中に昨日着ていた服が入れてある。
「鈴宮……?」
だけど、浴室にも鈴宮の姿はなかった。
浴室を使った形跡があるけれど、2時間にタイマー設定している換気扇は止まっている。
使ったバスタオルが、タオルハンガーに掛けてあるから、シャワーを浴びたのは間違いない。
じゃあ、何処へ行ったんだ……。
はっ、と思い出して、俺は慌てて寝室に戻った。
クローゼットを開けて、鈴宮の服を探した。
ここで生活をするようになってから、必要最低限の着替えをと、一緒に服を買いに行ったことがある。
その時に買った服は、ちゃんとあるけれど、初めてここに来た時に、鈴宮が着ていた白いシャツと、薄いベージュのチノパンだけが見当たらない。
今の鈴宮が行くところなんて、いったい何処にあるんだ。
悪い予感しか考えられなくなってくる。
着ていたパジャマを脱ぎ捨てて、クローゼットから適当に服を取り出して、それに着替える。
とにかく、探しに……だけど、いったい何処を探せばいいと言うのか。
指が震えて、シャツのボタンをなかなか上手くとめることも出来ない。焦っているのに余計に時間が過ぎていく。
ともだちにシェアしよう!