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―― ESCAPE(56)
覆い被さるようにして、熱い咥内を余す所なく舌で撫でていく。
熱で蕩けそうな舌を吸い上げると、伊織は甘い声を漏らしながら喉をしなやかに反らせた。
僅かに離れた唇を追いかけるようにして、更に深く口付けていく。
呑み込み切れない唾液が口端から零れ、小さな顎から首筋へ伝い落ちた。それを舌で掬い取るようにして拭い、そのまま白い肌を下っていく。
伊織は、小さく喘ぎ、柔らかく背中を撓らせた。
その姿は、俺の目には艶かしく、扇情的に映り、なんとか保っている平常心を狂わせる。
キシッ、と、小さく木の机が軋む音がする。
窓を閉め切った室内の温度は、徐々に上がっていく。
じわじわと汗が滲んでくるのは、温度のせいなのか、それとも……。
カーテン越しに届く淡い光に、鈴宮の汗ばんだ素肌が真珠のように煌めいている。その真珠を舌で味わいながら、肌の上を辿るように掌を滑り下ろしていく。
辿り着いた先で、控えめに布を押し上げている処に指が触れた。
探り当てたボタンを指先で弾き、そのままファスナーを下ろそうとした手を、伊織が不意に掴んで止める。
俺はもう一度上半身を伸ばし、「どうした?」と、不安そうな瞳に目線を合わせた。
「……先生は……男と、した経験ある?」
「……いや……、ないよ」
「じゃあ……」と言って、伊織は俺から僅かに視線を逸らし、「……抵抗ないの?」と続けた。
――抵抗なんて……。
「ないよ」
そんなものは、もうとっくに無くなってる。
俺の手を掴んでいる手を取って、その指の背にそっと口づける。
不安げな瞳を見つめながら、俺はゆっくりと手を離し、伊織のズボンの前を寛がせていく。
ファスナーを下まで下ろした瞬間、伊織の下肢がキュッと強張るのを感じた。
この状況に、戸惑っているのだろうか。
作業台に横たわる露わになった上半身は、上気して薄っすらと紅く染まっていて、ピタリと膝を擦り合わせた姿は、まるで恥じらっているように思える。
そんな風にされると余計に煽られて、ゆっくりと進めようとする気持ちと裏腹に身体の中が熱く滾る。
堪らずに、僅かに感じる抵抗を無視して、俺は伊織のズボンを下着ごと素早く剥ぎ取った。
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