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 ―― ESCAPE(57)

「綺麗だ……」  思わず息を呑む程に。  伊織の裸体を見るのは、初めてではない。  最初に俺の部屋に連れて帰って来た時に、一緒に風呂に入ったのだから。  だけど、あの時とは確かに違う。それは彼に対する俺の気持ちが変化したからなのか。  あどけなさの残る顔に、時折見せる大人びた表情や、まだ大人になり切らない未成熟な身体。  その中心で主張する薄い桃色の花芯が震え、先端から蜜を溢れさせていた。  そのアンバランスさに、俺の中の情欲がそそられる。  まるで……、ギリシャ神話に出てくる少年の彫像のようだ。  ……神に愛されてしまった少年の。  ――『だから、他の男に教えられる前に、私が覚えさせただけだ』  今なら……、あの父親の言ったことも、少しは理解出来るような気がしていた。 「……そんなに、見ないで」  そう言って、作業台の上で、伊織は隠すように身体を捩り、膝を擦り合わせる。 「……どうして?」 「……やっぱり……、やめる。無理しなくていいよ、先生」 「無理なんてしてないよ。抵抗なんて無いって言っただろう?」 「……だって、先生は、女の方が好きだって、前に言ったじゃない」  そう言って、顔を背けてしまった伊織の唇が、僅かに、つん、と尖っている。 「……ああ……」  ――『悪いな……、俺、女の方が好きだし』  伊織が前に俺を誘おうとした時に、そんな事を言ったな。憶えているよ。  だけど、それで、そんな可愛い仕草をするなんて……。思わず口元が緩んでしまう。 「あの時は君も、俺となんかごめんだって、言ってたね」  そう言いながら、ピタリと擦り合わせている膝頭に口づけると、横を向けた顔が、みるみる紅く染まっていく。 「隠すな、ちゃんと全部、俺に見せて」  ピタリと合わさった膝頭を両手で掴んで割り開き、内股へ時々リップ音を立てながら吸い付き、舌を這わせていく。 「……っ、や、だ……」  伊織は、それでも脚を閉じようとするけれど、その抵抗は弱々しくて、絶対的な拒否には思えない。 「君が好きだよ、伊織」 「……あ……」  囁きながら、脚の付け根に唇を寄せると、伊織はピクリと身体を震わせて甘い吐息を吐いた。 「もっと、俺を信じて」  ――愛してる。 「男だとか女だとか関係なく、君だから、こうやって愛したいんだ」  とろとろと先端を濡らす蜜を舐め取り、くびれをなぞり、硬い幹の裏に下から上へと舌を這わせる。  全てを愛おしむように。 「……っぁ、……せん、せ……ん、……っ」  ピクリと更に膨らんで反応した其処を、先端から咥内へ呑み込んで舌を絡めていくと、伊織の唇から、甘い喘ぎ声がひっきりなしに漏れ始め、僅かに抵抗していた脚の力が弛んでいった。  男を抱いた経験などなくても、どうすれば良いのか身体は自然に動くような気がしていた。

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