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―― ESCAPE(59)
ベルトを外し、前を寛がせようとする手を掴み、桜色の唇を荒々しく奪う。
「……んぅ……」
漏れる吐息ごと呑み込みながら、もう一度作業台へ押し倒した。
俺の首に絡めてくる細い腕が愛おしい。
「伊織……好きだよ」
キスの合間に、込み上げる想いを告白して、もう一度深く口づけてから、白い首筋から鎖骨へと舌を這わせていく。
ツンと尖った胸の頂きを舌で転がし、甘く食み、吸い上げれば、華奢な身体が作業台の上で艶めかしく泳ぐ。
脚を大きく開かせ、内腿に掌を滑らせながら奥の秘部へ唇を寄せていくと、伊織は身体を強張らせて声を上げた。
「まっ……て、あぁっ」
「どうして?」
あんなに俺を煽ったのは、君なのに。
身を捩って逃げを打つ腰を掴み引き寄せる。
太腿の裏側を押し上げて、露わになった秘部を指で割り開き、其処を舌で愛撫していく。
「あ……っ、や……っ……やだっ」
抵抗する伊織の脚を無理やりに押さえ付けて、熱い体内へ舌先を挿し込めば、強く拒否を訴えていた声が、弱々しい涙声に変わっていった。
「……やめて、そんなとこ舐めるな……っ、僕は……、汚れてるんだからっ」
――汚れてる……。
その言葉と辛そうな涙声に、ハッとして、俺は動きを止めた。
「……どうして、そう思うんだ?」
見上げれば、伊織は目を潤ませながら、それでもしっかりと俺に視線を合わせている。
「今まで、数え切れないくらい何人もの男を、其処に悦んで受け入れてきたんだ。この間も凌のところで僕は……っ」
そこまで言うと、伊織は声を詰まらせた。
「……僕は男無しではいられない、ただの淫乱なんだ。だから汚れてる。どんなに洗っても消えることはない」
言いながら、瞳を瞬かせた瞬間、大粒の涙が一筋零れ落ちる。
それは悲鳴のように聞こえて、心に抱えていた悩みを吐き出すような、告白に思えた。
「だからっ、そんなこと、しなくていいからっ、突っ込んでくれたらそれでいいからっ――」
涙を零しながら伊織が言った言葉に、胸の奥が締め付けられる。
俺は、涙に濡れた頬を両手で挟み、もうそれ以上哀しい言葉を言わせないように唇を塞いだ。
「う……ゥッ……」
伊織の心の痛みのような嗚咽を、全部俺が呑み込んでやりたいと思った。
「君は、穢れてなんていない」
どう言えば、君の心は癒されるのだろう。答えは見つからないけれど、俺は唇を離して、感じたことだけを告げる。
「そんな風に、思うということは、そうしてきた事を後悔しているからだろう? それを分かっているのなら、君の魂は綺麗だと思うよ」
「……父さんは、汚れた記憶を忘れさせてくれたのに……」
「無理に消す必要なんて無い。憶えておけばいい」
少しだけ、あの父親への嫉妬もあったのかもしれない。
今までの事を全部憶えておけばいいと、言いながら、俺は……。
「俺は、今の君の全てを愛しているんだから」
「あ……っ、先生っ……」
それでもまだ抵抗する伊織の小さな窄まりへ、口付けして舌で愛撫する。
わざとらしく、音を立たせて、君の気持ちを俺に向けさせたかった。
――俺の事を愛さなくてもいいから……
「俺が、君を愛してるという事だけ、信じていろ」
いいな。と、確認するように、目線を合わせれば、伊織は抵抗の力を僅かに緩ませた。
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