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―― 至愛(9)
好きな人と想いが通じ合うって、こんなに幸せなことだったんだね。
あんなにいつも、何かが足りなくて、あんなにいつも渇いていたのに。
愛って、どんな快楽よりも満たされる。
「あっ……っ」
トロリとしたローションで充分に濡らされた窄まりに、教授の熱い切っ先が宛がわれただけで、吐息が漏れてしまう。
先端が潜り込み、身体の中を教授の形に押し広げられていく感触がすごく好き。
教授の唇からも、微かに吐息が落ちてきた。
「ああっ……あぁっ」
一気に奥まで熱い杭に貫かれて、堪らずに嬌声を上げ、教授の背中に回した手に力が入ってしまう。
少し開いたままだった障子の隙間から、そよ風が桜の花弁を運んでシーツの上に落とした。
――ああ……、広縁の窓を開け放したままだったな……って、ちらっと思う。
高い塀があるから見えないと思うけど、もしかしたら僕の声が、家の前の道まで聞こえてしまったかもしれないな。
「……ふふっ……」
思わず口元を緩めてしまった僕に、教授が艶然と微笑んだ。
「……思い出し笑いかい?」
荒い息を吐きながら、優しい瞳が僕を見下ろしている。
「……ん……、世界中の人に先生のことを自慢したいな……って……、ん……」
そこまで言った僕の唇は熱いキスで塞がれて、律動が激しくなっていく。
乱れたシーツの間に、桜の花弁が見え隠れしていた。
奥深くに教授を感じて、放たれる熱い飛沫が僕の身体も心も満たしていく。
恋人と、まるで溶け合うようにひとつになれる、この瞬間が好き。
*
「伊織、時間が無いんだろう? 早く支度をしなさい」
――誰のせいだと思っているの。
そう思うけど、そんな風に言ってくれるのも好きだった。
「……うーん、なんか面倒になってきた……。やっぱり行くのやめようかな……」
そんなつもりも無いくせに、僕は枕に顔を埋めて、ワザと子供みたいに言ってみせる。
「何言ってるんだ。藤野先生や慎矢くんにも折角会えるのに……、ほら、起きなさい」
頭から被った布団を剥ぎ取られて、唇を甘く啄ばまれる。
ああ……、やっぱり今日は、ずっとこのままここで過ごしたいなんて、思ってしまう。
「あ、先生、お昼の支度はしてあるんですけど、夕飯はどうしますか?」
漸く起き上がり、衣服を整えながらそう言うと、優しい掌が頭を撫でてくれる。
「俺の食事の心配はいいよ、ちゃんと食べるから」
「本当ですよ。でも、なるべく早く帰りますね」
一人暮らしが長い教授は、家事だって何でも出来るんだけど、制作に没頭すると、食事なんて平気で抜いてしまう時があるから、心配なんだ。
「いいから、ゆっくりしておいで」
そう言って、綺麗な指が僕の顎をそっと捕らえて、唇が重なった。
優しい口づけをひとつくれて、漆黒の瞳が僕を映し出す。
「そうだ、桜が咲いているうちに、何処か一泊くらいで旅行に行こうか」
「え?」
そういえば、二人で何処かに旅行になんて、まだ行ったことがなかった。
「嫌かい?」
教授からの嬉しい提案に、僕が反対するはずもない。
「嫌な訳ないじゃないですか。嬉しい……、行きたいです!」
すごく嬉しくて、思わず教授の首に抱き付いてしまった。
ああ、こんなに幸せでいいのかな。
幸せ過ぎて怖いって、よく言うけど、それってこんな時のことを言うんだろうか……、なんて思ってしまう。
「じゃあ、何処に行くか考えておくから、伊織も考えておくんだよ」
――いいね?
と、続けながら、教授は、また僕の唇を甘く啄むように口付けをくれた。
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