8 / 18
おさわりし放題ゲーム(第3話『わんことゲーム』1)
俺はゲーム画面の右上に表示されているスコアが気になっていた。3000点超えた……。数字の色がシルバーからゴールドに変わる。
朝倉の腕の中に、俺は収まっている。
朝倉は俺の肩に頭を乗せて、携帯ゲーム機を動かしている。
「久しぶりにやったけど、スコアが落ちないな。どこから敵が出るか覚えてる」
二人羽織みたいな格好で、朝倉はシューティングゲームをプレイしているのだ。
「これが最終ステージ」
「もう!? はや!」
「覚悟しとけよ」
俺は、唇を人差し指で撫でた。
「うん……」
突然、ゲーム画面の左右から、羽が生えた卵がいっぱい出てきた。
「あ。これ、かわいいね。マシュマロみたい」
俺は画面にふれた。
「ちょ、さわんな!」
「へ?」
朝倉の機体が、俺がさわったところに高速移動した。と思ったら、卵にぶつかり、爆発した。軽快な音が鳴る。
画面には、でかでかと『GAME OVER』と表示された。朝倉が震えている。持っているゲーム機が揺れた。
「このゲーム、タッチパネル対応なんだよ……」
「ごめん、ごめんね!」
俺は顔を動かして、朝倉のほうを見た。朝倉、目が怖い。
「さっきのは敵に決まってるだろ」
「ごめん。いままで出てきた敵とは全然違ったから、おもしろいなと思ってはしゃいじゃった」
「ゲームのマスコットキャラとでも思ったのか、え!?」
「ほんと、ごめん! 俺、ゲームよくわかんなくて。さわったらだめなんて知らなかったんだよー」
「あー。3000回キスできるところだったのにー」
朝倉はゲーム機をちゃぶ台の上に置いた。
「ははは……残念だったね」
ゲームをプレイする前、朝倉は言ったのだ。
『なんかご褒美ないと楽しくねーな。橋本。ゲームクリアしたときのスコアの点数だけキスしよう』
『いいよ!』
まさか、四桁までいくとは思わなかった。
「キスしたくないからゲーム中断させたのか?」
「ちがうって。でも、3000回は無理だって」
「3000秒ならいいか?」
朝倉はにやりと笑みを浮かべて、俺に顔を近づける。
「えー、3000秒?」
俺は視線を上にやって頭のなかで計算した。
「は、50分!? 無理、無理! よだれいっぱい出る」
「俺が拭いてやるから。あらー、濡れちゃいましたねーって。まあ、いいや。別のゲームで遊ぼう」
「他のもあるんだ?」
俺は、朝倉の実家から届いた段ボール箱を見た。
お届け物に、さっきまでプレイしていたゲームが入っていた。弟さんが遊ばなくなったゲームらしい。他に食材がいっぱい入っていたけど、ゲームソフトやゲーム機がまだあったかな?
朝倉は俺をぎゅーっと抱きしめた。
「朝倉?」
「まずは充電しないとな」
朝倉は、俺のお腹を撫でている。俺は朝倉の手にふれた。
「まさか、別のゲームって……」
「橋本おさわりし放題ゲーム」
「えー」
朝倉は俺のお腹を指でつっついた。
「お、電池があるぞ。70パーセントくらいだな。夕飯を食べたからかな」
「ちょっと。俺、おさわりし放題じゃないよ」
ともだちにシェアしよう!