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抱き枕ごっこ(第4話『わんことごろごろ』1)
俺は布団の上に寝て、両手を広げた。
「おいで、朝倉」
勢いよく朝倉が飛び込んでくる。俺は朝倉の体をぎゅっと抱きしめた。両足を朝倉の腿に絡ませる。
「必殺、抱き枕ホールド!」
「いつも思うんだけど、俺が抱き枕になっているから、その技の名前は違うんじゃね?」
「じゃあ、何がいい?」
「リスよじのぼりホールド」
「俺、リスじゃねーし」
俺と朝倉は抱き合ったまま、ごろごろと右、左に転がる。
これは、最近俺たちのあいだで流行っている抱き枕ごっこだ。眠りにつく前に、『どちらがかっこいい抱き枕になれるか』を競っている。
「じゃ、俺のターン」
「うん」
俺は朝倉に巻きつけていた足を外した。朝倉が俺の腿に足を巻きつける。
「きたな、わんわんホールド!」
「なんで俺はわんこなんだよ。んー、この枕は長さが少し足りないなあ。パワー不足だなー」
「抱き枕にパワーは要らねえ。大切なのは抱き心地だって」
俺は朝倉にキスをした。唇を重ねたまま、背中を撫でた。
「ほら、最高だろ?」
朝倉が好きな不意打ちのキスをお見舞いしてやった。どうだ、朝倉。
朝倉は顔を赤くして笑みを浮かべている。
「積極的な枕だな、おい」
「他にもできるぞ」
「へえ。やってみろ」
「わかった。足を外して」
「やだ」
「え?」
朝倉は俺の唇を撫でた。
「キスだけで俺を満足させてみろよ。キスが得意な橋本くん?」
「キスは好きだけど、得意なわけじゃ……」
「ほら」
朝倉は目を閉じて、キス待ち顔でおとなしくしている。つり目のラインが綺麗だなあ。
朝倉は、ちょっとだけ口を尖らせている。無言だ。
俺は何もしないでじっと朝倉を見つめた。
「ん、んー」
朝倉は唇を俺に突き出すようにしてきた。
「んー、んー」
でも俺は何もしない。笑いを堪えるのに必死だ。
「んー、橋本、んー」
「ふふふ」
「おい、んー!」
「ははは」
「おい、橋本」
「かわいいっ。朝倉、かわいすぎるよー」
朝倉が目を開けた。顔が真っ赤だ。
「いつまで待てができるかなと思ったんだ。20秒……20秒も待ってくれた……」
「そりゃあ、待つだろ。好きな奴からキスをしてくれるんだから」
「朝倉、やっぱ、わんこだ」
「は?」
「かわいいわんこだ、朝倉」
「へえ、かわいいわんこね……」
「うん。ちゃんと待てができるわんこ。俺のかわいいわんこ」
「そうか、そうか……かわいいわんこに、おまえはまた意地悪したんだな……」
あ。朝倉が震えている。まずい。
「朝倉……。俺、ちょっとひどいことしちゃったな」
「ちょっとどころじゃねえよ。俺、すっげえキスを期待していたのにー」
「ごめん、いまからするから」
「もういい」
「え?」
本気で怒ったのか。どうしよう。
「そうだよ、俺はわんこだよ。飼い主に振り回される、かわいそうなわんこだ、よ!」
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