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第5話

「湯橿さん!」  間近でする声は完全にパニクっている。 「どうしてこうなっちゃってるんですか」  無理もない。  優月の本体のパーカ-とTシャツとは引き剝かれており、薄い胸が明かりの元にさらけ出されているのだから。  そしてその胸にはキスマークが一つ。  これらは俺がやったのだ。  意識のない実体に悪戯だ。  いや、治療だ。 「ショック療法だよ。おとなしくしてろ」 「でもこんなのって、こんなのって……」  空中でジタバタする幽霊なんてそう見られるもんじゃない。思わず俺は笑っちまった。 「お前本当にかわいいな。ひん剥いて胸にキスしただけじゃねぇか」 「やめてください。そんなのホント困ります」 「乳首、感じちまうからか」 「な、そんな……。男なのに、ち、乳首で感じるなんてあるはずが……」 「それがあるんだな。開発されると乳首だけでイケるようになる男もいるんだぜ」 「そんなことって」  優月の常識では信じられないどころか想像すらできないことだったのだろう。  驚いて眼を丸くするのがまたかわいらしい。  もっとも、これで感じるくらいなら蘇生するのも案外簡単だろうが。 「俺はゲイなんだ。正直お前は俺の好みのタイプ。かわいがって、泣かせて、抱きつぶしたい感じだ」 「ええっ⁉」  もうこれ以上ないくらい眼を見開いて、酸欠の金魚みたいに口をパクパクしている。  そんなちょっとおバカな反応もまたかわいくてたまらない。  やばいな。  俺はこいつに落ちそうかもしれない。 「いいか、ゲイだからって色物扱いするなよ。そう珍しくもないんだぞ。それより、お前みたいなかわいいのが、今まで男に声をかけられたこともないのか」 「ありませんよ」  ブンブン首を横に振って全力で否定する。 「ホントかよ。京都のゲイは見る目がねえなぁ」  ま、俺と同じで、こいつがあどけなさ過ぎて手が出せないと、二の足を踏んだのかもしれなかった。  誰だって未成年者相手に性交して犯罪者にはなりたくはない。  おかげで俺は初物に食らいつけそうだけどな。 「かわいいとか言われるのもいやです。僕、男なんですから」  こだわってムッと唇を引き結ぶ。その様子も俺からしたらかわいい以外のなにものでもなかった。 「死ぬほど気持ちよくしてやるからさ」 「もう死んでるかもしれないのに?」  仮死状態の自分の身体を見てとんちんかんな問いかけをする。  天然か。 「生きてるよ。温かいし」 「ほんとですか」 「死んでる身体なら肌にキスマークなんてつかないんじゃないか。死んだ後に反応なんてしないだろ」  詳しくは知らないが、肌にうっ血が残ったのは事実だ。 「キスマークなんてつけないでください」 「なんで。気持ちよくないか」 「なにも感じません」  霊体のほうには感覚がないのだろう。 「本体は気持ちいいはずだぜ」  俺は指先でキスマークに触れる。  見ていられないと、優月は顔を背けた。  それならと、俺はわざと音を立てて乳首を吸う。  優月幽霊は中空で見悶えた。 「湯橿さん。恥ずかしいです。もう……」 「ショック療法だって言っただろ。いっぺん箍を外してみろよ。頭ん中空っぽにして快楽に溺れろ。普段の自分を解放するんだな。そうしたらその衝撃で元に戻れるかもしれないだろ」  思い付きにしちゃ意外に説得力のある言葉になったと思う。  俺の手は優月の両方の乳首をそれぞれ摘まんで虐めだしていた。  優月はひっと息を飲み、見て分かるほどにひるんだ。 「幽霊でも赤くなるんだな」  俺は手を伸ばして、優月幽霊の頬を包むような形にする。空を抱く。実際にはなんの感触もないが、俺は膝立ちになって優月の唇に唇を押し付けた。 「あ……」 「お前とじかにキス出来ないのが残念だな」  たらし込む視線で、空にとどまった初心な獲物を見る。  ふるふると震えている小動物。  俺は自分が肉食なのには自覚があった。  とくに酒が入り過ぎるとやりちんになる傾向がある。  目の前には10歳ほど年の離れたかわいい男。  誘ってんじゃないかと錯覚するほど優月の反応は幼気で魅力的だった。 「マジで犯っちまいてぇよ」  悪辣な言葉で威圧し、盛り上がって来た欲望のまま再び優月本体にのしかかった。

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