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両片想い3

(お客様にお茶を出すのって、新人の女子社員がすることじゃないのか!?)  新人として入社した二日目、給湯室にこもった俺は、淹れたことのないお茶出しに悪戦苦闘していた。  苛立ちまかせに急須に茶っ葉を入れた途端に、背中に何かが当たる衝撃を受けた。そのせいで足元がふらつき、台所に両手をついて何とかやり過ごす。 『坊ちゃん、俺の商談を壊すために、渋いお茶を淹れようとしてるだろ』  俺の肩に顎をのせながら、ぼやくように先生が呟く。背中に感じる温かみに、苛立っていた心がほっとした瞬間だった。 「せっ……。こんなところで油売ってて、大丈夫なのかよ?」  先生と言いそうになり、口を一旦引き結んでから、文句を言ってやる。頭の中では何度も課長呼びをしてるのに、不意に現れたせいで、いつもの呼び方をしそうになった。 『お前と一緒に入社した女子社員と、和やかに談笑中だ。俺よりも若い女の子のほうが、向こうさんも嬉しいだろうさ』  俺の脇から両腕を伸ばして、急須に入れたばかりの茶っ葉をシンクの中に投げ入れた。 「ちょっ、せっかく入れたのに!」 『やったことのない仕事は誰かに訊ねるなり、ググって調べたりして、少しでも完璧にこなす努力をしろ』  言うなり、頬に柔らかい唇が押し当てられた。 「課長……」 (そんな子供じみたものじゃなくて、濃厚なキスがしたい――) 『先方を待たせてるんだ。早めに用意してくれ』 「はい、分かりました」 『お前が淹れたはじめてのお茶、期待してるからな』  身を翻すように出て行ったあとに漂う、嗅ぎ慣れた先生の香水。消えた温もりと一緒に、その香りもどんどん薄くなる。それはまるで俺に対する、先生の想いのように感じてしまった。  期待されたら応えたくなる。だから一生懸命に頑張った結果、褒めてもらえる。ご褒美は『よくやったな』という言葉と微笑み、それと先生の躰。  俺が強請れば『好きだ』と言ってくれるけど、自主的に先生の口から、想いを告げられたことはなかった。  そのせいで俺の中に漂う不安が、いつも胸の中を重く支配している。  クォーターの目立つ容姿で、それなりに背も高く、誰にでも愛想が良くて仕事もできる、格好いい先生に近寄ってくる女子社員がいるのを、入社してからたくさん目にした。  恋人の俺が新入社員として入ってくるまでに、間違いなく大勢に言い寄られているだろう。  俺の前以外では外面よろしく、みんなに対して平等に接していることもあり、特別な関係に進展させようとする輩は、極小数に限られているものの――。 (先生の恋人として、本人に認められているのに、「俺のものだからな!」なんて、公明正大に声できないのがつらい……)  今日だって仕事中なのに、最近入ったばかりの隣の課にいる派遣社員の女に廊下で話しかけられて、デレデレしていたように見えてしまった。  思い出しただけでも、ムカつくことこの上ない。  新入社員として、俺は真面目に仕事をしていた。たまたまわからないところが出たから誰かに聞こうとしたけど、忙しそうな感じが雰囲気になって伝わった。  それに困って課長を見ると、そんな様子はお構いなしに部署を出て行く。いつもなら気遣うはずなのに、スルーしたのがどうにも気になって、あとをつけてしまった。  向かった先がトイレだと思ったのもつかの間、女に言い寄られてるところを目撃して足を止めた。慌てて周囲を確認しながら、柱の影に身を隠す。  甲高い女の声はところどころ聞こえるのに、課長の低い声はまったく聞こえない。だけど女の様子と微笑みを振りまく課長の様子は、明らかに楽しそうだった。  さらさらの長い黒髪、自然と色気を放つ大きな胸に丸いヒップは、普通の男なら垂涎モノだろう。まさに目の保養だ。 (あ~、見ていられない。鼻の下伸ばして、思いっきりデレデレしやがって!)  そんなイライラが募った結果、退勤するなりホテルまで強引に先生を拉致ってしまった。  いつもの俺なら、それなりに仲良く食事しながらお酒を飲み、そういう雰囲気にもっていったのちに、ホテルを使っていたというのに。 「課長……、いや先生は、嫌々俺と付き合ってるわけ?」 「もうお前の先生じゃないんだから、その呼び方を改めろ」 「鉄平って呼んだら怒るくせに」 「当たり前だ。名字を使え」  色素の薄い前髪を掻きあげながら、鋭い視線を飛ばしてくる。俺の苛立つ気持ちが移ったのか、眉間に深い皺ができていた。  そろそろ本当の理由を言わないと、激昂させてしまうかもしれない。そうなったら、間違いなくお手上げ状態になる。  恋人になったのをいいことに、一度約束を無視して、Hなコトを進めようとしたら、平手打ちを思いっきり食らった痛い過去があった。  怒りに躰を震わせながら、鬼のような形相で先生に睨まれた途端に、冷や水を浴びせられた気分に陥った。変なことして怒らせるのはもう二度とごめんだと、強く思った瞬間だった。 「……しっ、白鷺課長は午前中、隣の課の女と廊下で喋ってただろ」  変に上ずった俺の声が、部屋の中に響く。 「何で、そんなことを知ってるんだ? もしやお前、仕事をサボって、俺のあとをつけたのか?」  動揺を示した俺の声とは裏腹に、先生の声はいつも通りだった。 「違う! わからないところを聞きたくても、みんな自分の仕事に忙しそうだったし、空いてるのは白鷺課長だけだったから、出て行ったあとを追いかけたというか」 「…………」  この人は都合が悪くなったら、黙りを決め込む。昔からそうだった。だけどそんな沈黙すら愛おしく思えるのは、先生の視線を俺だけのものにしているから。  先生を独占できる、唯一のひととき――。 「はっ、そんなくだらない理由で、ここまで連れられたとは!」 「俺としては、それが不機嫌になる理由なんだよ。恋人がいる分際で見せつけるように、あんなところでイチャイチャしてさ……」 「イチャイチャしてるつもりはない。彼女に訊ねられたことについて、真摯に答えていただけだ」 「鼻の下伸ばして、女の躰を舐め回すように見てたくせに」  先生から『お前が好きだ』とたくさん告げられていたら、こんなくだらないことで、不安になったりしないのかな。俺ひとりでやきもきしながら大好きな人を口撃するなんて、本当はしたくないのに。  こんなことを続けていたら、いつか先生に捨てられるかもしれない。 「お前を不安にさせたみたいだな、悪かった。だけど彼女を、そんな目で見ていないから」  下唇を噛みしめながら上目遣いで先生を見たら、眉間に刻んだ深い皺を消し去り、まぶたを伏せながら小さく頭を下げる。言葉と態度の両方で謝られても、俺の気持ちはそれだけではおさまらなかった。 「俺を傷つけたバツとして、ここでオナニーしろよ」 「ここでって、なんで……」  もの言いたげな先生の視線は俺を突き通して、背後にある扉を見た気がした。 「何でって、恋人の心を傷つけたからだ。オナニーくらいできるだろ? 俺にされてることでも思い出しながら、ここでやってみせてよ」  俺の言ったくだらないワガママは、この人にはきっと通じない。今ごろ頭の中ではそれを論破する方法を、必死になって考えていることだろう。  元教え子で部下の俺を簡単にやり込めてやるという思いが、先生のまなざしにありありと浮かんでいた。 「白鷺課長、早くしないとルームサービスが来ちゃいますよ」  あれこれ考える暇を与えるなんて優しいことを、恋人である俺はしない。 「壮馬、お前……」  焦ったのか、珍しく名前で呼ばれた。綺麗な形の唇から、俺の名前をもっと呼ばせてみたい。さらに追いつめたら、それが可能だろうか。 「俺が傷ついた分だけ、課長を辱めたいんだ。早くしてみせて、ねぇ――」  下卑た視線で先生を見下ろして、コトに進めるように促した。そんな視線をまじまじと受けて、先生の頬はほんのりと赤く染まる。逃げ場を求めるように右往左往する瞳は、涙ぐんで潤んでいるように俺の目に映った。突然言い出したワガママに、相当困っているのがわかった。 「……せめてベッドで」 「駄目。それじゃあ俺の傷が癒えない」  ぴしゃりと言い放ったら覚悟を決めたのか、縦縞の入った紺色のスラックスのジッパーを、震える右手でやっと下ろしはじめた。 「そんなふうに…じっと見られていると、やりにくい……」  ところどころ掠れた声で、やっと告げる。それくらいこの状況に、羞恥心を感じてしまったのか――それとも……。 「早くしないと、ルームサービスが来るかもよ」 「くっ!」  さらに頬を染めた先生は、渋々それをスラックスの中から取り出す。ひんやりとした場所に出されたモノは、ちょっとだけ大きくなっていた。 「白鷺課長ってば、ここに連れられた時点で、かなり興奮していたんだろ。久しぶりに俺ので貫かれるんだと思ったら、感じずにはいられなくて」 「…………」  スラックスから出すだけ出して、掴んだものを握りしめるだけで終わらせる先生に、追い打ちをかける言葉を即座に考えつき、ところどころを強調させるように口を開く。 「とっととしごいてイカないと、勃起して興奮している白鷺課長のあられもない姿を、ルームサービスを運んできた従業員に、思いっきり見せることになるかもな。もしかして男相手に欲情しているところを、あえて見せつけたいとか思ってるんじゃないの?」  くすくす笑いながら先生の背後に回り込み、背広のボタンを外してやった。真正面で何をしているかを、やって来た相手にはっきりと確認させるように――。 「壮馬、悪かったって謝ってるだろ。もう許してくれ。こんな姿、お前以外に見せたいとは思っていない」  顔だけで振り返って謝罪する言葉を告げられても、あのとき傷ついた俺の心は癒えたりしない。そしてこんな馬鹿げたことをしても、何も変わらないのは事実。 「俺のことを何とも想ってないから、そうやって拒否るんだろ」 「…………」 「俺が女子社員と目の前でイチャイチャしても、白鷺課長の心は傷ついたりしないもんな。きっと涼しそうな顔で、その場を通り過ぎるだろ」 「ふぅ、っ!」  舌先を使って耳の縁を下から上に舐めてみたら、びくりと躰を震わせて変な声を出した。 (先生の弱い部分は、すべて把握済み――次はどこを責めてあげようか) 「手の中のモノ、大きくなってきてる。もっともっと感じないとイケないでしょ、白鷺課長」  背後から先生の手に自分の手を重ねて、ごしごし力強くしごいてやる。 「ん、ふ、あぁ……」  恥じらいを含んだ先生の甘い声に、俺の下半身が反応しはじめる。目の前にあるひきしまったお尻に、ゆっくりとそれを擦りつけた。お互い布地越しでもわかる。じわじわ上がっていく体温と、相手を欲する気持ちがリンクしていた。 「そぉまっ、もうやめ、ろって」 「完勃ちしといて、今さら何を言ってるんだよ。俺のが欲しくて、ココをこんなに濡らしてるくせに」 「耳元で…ぃうな! 馬鹿っ、あっん!」  先生の躰が大きく震えた。俺が空いてる手で、感じやすい左胸を唐突に弄ったせいだろう。 「鉄平って変態だね。乳首を強く抓られてるのに、感じてエロい声を出すなんて」 「な、まえでっ、呼ぶな……。もっ、ぐりぐりしないで、くれ」  荒い息を繰り返しながらも、やめて欲しいことを連呼する。 (――すっごく感じてるのに、そうやってやせ我慢するところ、可愛くて好きだな) 「こんなときだからこそ、名前で呼びたい。それくらいは許して鉄平。恋人同士なんだしさ」 「何か…あったときに、ドジなお前なら俺の名前を呼びそぅだっ。部下が上司の名前を、呼ぶなんて、おかしいだろ」 「何かって、今は大事なナニかをしてるじゃないか」  ついでに耳に向かって、フーっと息を吹きかけてやった。 「ンンっ!」 「鉄平が早くイケるように、俺がもっとアシストしてやるよ」  頬にキスを落としてから前に回り込み、颯爽としゃがんで、先生の大きなモノの先端だけを口に含んだ。 「おまっ、こんなところ見られたりしたら、ヤバいだろ!」  真っ赤な顔で目の前にある扉と俺を交互に見るなり、怒鳴りつける。赤ら顔のお蔭で、いつもの怖さがまったくなかった。 「ルームサービスなんて嘘だよ」 「壮馬、お前……。謀ったな」 「だけど鉄平、興奮しただろ。ココをこんなに硬くして」  ちゅっと音を立ててそれを吸い上げたら、しごいている先生の手の動きが早くなった。  誰も来ないという安心感で、快感に身を任せる気持ちに切り替えたんだろう。下から見上げる表情は、さっきよりも険しさがなくなっていた。 「んんっ……ぁっ…んっ、ぁあっ」  いやらしく動く先生の手に合わせて吸いながら、両手で双丘を揉みしだいてやった。こんなに刺激されたら、間違いなく先生の大事なトコロは俺のを欲しがって、疼いているのが容易に想像ついた。 「ぅん、ぁ…お願ぃっ、壮馬の口でもっとっ……、気持ちよくし、て」  強請りながら俺の頭を掴み、口の中に大きなモノをぐっと押し込む。

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