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両片想い7

☆∮。・。・★。・。☆・∮。・★・。 「あ……っは…ぁ、ん…っ」  したたかに酔った勢いをそのままに、ベッドに全裸で横たわって、熱く火照った躰を慰めていた。 「ぁあ…ふ…ぁも…いれてっ…壮馬、んっ…は…ぁっ……!」  自分の指じゃ物足りない。もっと太くて固いのが欲しい。しかも奥深くに――。 「あっ…ぅんっ、もっとっぉ」  室内に響くローションの卑猥な水音が大きくなっても、中途半端な快感ではなかなか満たされない。 「おいおい、ワインのボトルを全部飲み干して…ってちょっ! いきなり何やらかしてるんだよ!?」  ベッドルームに入るなり、変な声をあげた壮馬の顔は、一瞬で真っ赤に変わった。 「お前っ、俺のおっ、オナニー……、見たがっていただ、ろ。わざわざ見せつけてやってる、んだ」  煌々と照明が照らし出す下で、繋がるところが見えるようにわざと見せつけつつ、舌なめずりをした。  早く来いと言わんばかりの態度で煽る俺を見た壮馬は、小さなため息をついてから、大事な部分に挿れっぱなしになってる指を引き抜く。 「課長の指3本じゃ、馴らしたことに全然ならないだろ。これじゃあ俺のが挿いらない」 「馴らしてる最中だったんだ」 「その割に感じて、変な声を出してなかったっけ?」  言うなり、ごつい指を何本も一気に挿れる。 「ふ、くぅっ!」 「ただでさえ課長の中はキツいのにちゃんと馴らさないと、お互い痛いだけだろ」  中で蠢く指を感じながら、荒い呼吸をやっと繰り返した。 「指じゃなく、壮馬のが欲しぃっ…あっ、ンンっ…」 「わかってるって。ああ、もう。酔っぱらった課長なんて、抱きたくないのに。俺の身が持たねぇよ」 「酔っ払いでっ…悪かった、な」  俺の気持ちのいいところがわかっているんだろう。壮馬の指がそこを執拗に突くせいで、感じるたびに腰を仰け反らしながら、両足でシーツを蹴りまくった。 「あっ、もぉいいだろ、早くお前のを挿れて」 「ワインを空っぽにしたり、こんなふうに淫らになるなんて変だ。なんでこんなにヤケになってんだよ、らしくねぇな」  俺の心情を言い当てた壮馬の言葉に、顔を横に向けて視線を逸らした。それを合図にしたのか指を抜いて、隣に横たわりながら躰をぎゅっと抱きしめる。 「壮馬、せっかくいいところなのに、水を差すようなことを言うな。ヤル気が失せるだろ」 「……親父が課長に見合いの話をしたこと、もう言わないように俺からも言っておく」 「だから、そのことは――」  見えないように隠していた顔を動かして壮馬を見たら、えらく真剣みを帯びたまなざしとぶつかった。わからない仕事にぶち当たり、オロオロして困っているときとはまったく違うそれに、縋りつきたい衝動に駆られる。  いろんなことで自分の心がかなり動揺していたのを、改めて認識した。 「課長の嫌がることをしないように、きっちり注意しておく。だから安心して」 「壮馬……。お前が社長に俺のことを言わなくても、自分で対処するからいいって」 「好きな人が困ってるのを、そのまま見過ごすなんてできるわけないだろ」 「んぅっ!」  俺の苦情を塞ぐためなのか、荒っぽいキスで唇を重ねられた。 (先のことやコイツとの関係や面倒くさいこと全部、このまま何も考えずに済んだら、本当に楽なんだろうな)  壮馬の頬に片手を添えたら、目の前にあった顔が遠のいた。 「鉄平のことを大事にしたい。だけど今の俺には、できることが限られているのがすっげぇ悔しいんだけどさ。それでも、自分がやれるところからはじめようって決めたんだ」  なんだか調子が狂ってしまう。いつの間に壮馬は、こんなにも頼りがいのある恋人になってしまったんだろう。 「俺なんて、大事にする価値なんかないだろ。どこにでもいる普通の男さ」  コイツは知らない――金を得るために、自分の躰を簡単に売る男だということを。 「そんなことない、価値はあるって。大人でしっかりしたところがあるくせに、儚さみたいなものがあるのを、子どもながらに感じてた。俺が守らないと駄目なんだって思わされた、大切な人だから。こんなふうに誰かのために何かしなくちゃいけないって考えたのは、はじめてなんだよ」  さらにキツく抱きしめる壮馬の両腕の強さに、愛おしさがひしひしと募っていく。思わず「好きだ」と叫び出したいくらいに。 「お前は俺の本当の姿を知らないから、そんなことが言えるんだ」  いつか別れる未来のために、少しずつ嫌われなくてはならない。それがコイツのためになる。 「知ってるよ。家庭教師をしていたときは、高校生に勉強を教えながら、エッチなことをしていたんでしょ? 『俺とヤりたければ、成績をあげるのが条件だ』とかなんとか言って」 「ああ……」  見つめられる壮馬の視線を逸らさず、しっかり受け止めながら答えた。 「だけど俺と本格的に付き合ってからは、誰とも何もしていないよな。他の男の匂いやキスマークも、一切なくなったし」 (恋人になる前後の違いを、壮馬なりに感じていたのか。あのときは適当に生きていたから、その雑さ加減が出ていたんだな) 「確かに、その通りだ」 「なぁ、俺ひとりに絞った理由ってなに?」 「まずは躰の相性が良かったことと、お前が社長の息子だったからさ。都合のいい関係になるには、ちょうどいいだろ」  いつか訊ねられると考えていた質問だった。予め用意された嫌われるための返答を、淀みなく言い伝えることができた。 「鉄平は嘘が下手だね。どんなに言葉に感情を込めても、目が虚ろなんだよ。まんま嘘ついてますって表してる」  目は口ほどに物を言うって言いたいのか。参った――。 「嘘じゃない。お前のコレは俺を満足させるのに、ちょうど良かった」  瞳を細めながら無理やり微笑んで両目の感情を消しつつ、壮馬の大きくなったモノに手を伸ばした。 「お前、どうして勃起してないんだ」  今までの話の流れで、興醒めしたのかもしれない。それなのに俺は壮馬に与えられた熱を、そのまま保温しているみたいだ。こんな話をしていても、おっ勃ったままでいられる神経は、おかしいと思われるかもな。 「酔っ払いのオナニー見ても、俺は興奮しねぇよ」 「お前の手で散々弄って、俺の感じてるところだって見てるはずなのに」  壮馬は、俺の乱れたところを見るのが好きだった。それなのにどうして――。 「何度も肌を重ねてるからわかってる。鉄平が思うほど、俺はもう子どもじゃない。下手な芝居して騙すのは、いい加減に勘弁してくれよ」 「騙してなんていない……」  頬が痙攣するように引きつり、微笑みが崩れていくのがわかった。一生懸命に笑おうとしてるのに、目の前にいる壮馬の顔が、水の中に入ったみたい歪んでいく。 「俺に嫌われようと、必死こいてるみたいだけどさ。こんなにも鉄平が好きなのに、今さら嫌いになんてなれるわけがない」  あたたかい手が、流れる涙を拭っていく。それなのにとめどなく溢れるせいで、拭ったそばから頬を濡らした。 「これって、俺が泣かしたことになるんだろうな。喘がせながら啼かせたかったのに」 「よく、言うよ……。バカ!」  自分の腕を使ってゴシゴシ涙を拭った。こんなふうに泣いたのは、何年ぶりだろうか。  そんなことを考えていたら、壮馬の唇が目尻に当てられた。 「やっぱり涙はしょっぱい。だけど鉄平の涙はその中に、別な何かを感じる」 「壮馬?」  湿った頬に、優しいキスがたくさん落とされる。まるで涙のあとを辿るように。 「ンっ、くすぐったい」  肩を竦めると、耳元に顔を寄せてきた。 「どうしたら別の何かを、鉄平の口から聞き出すことができるんだろう?」  言うなり首筋に舌が這わされる感触を、肌に感じた。 時おりちゅっと吸われる甘い衝撃に、吐息を吐きながら躰をビクつかせた。 「何を考えているんだよ。躰はこんなにも俺を欲しがって正直なのに、鉄平が何を考えているのか、さっぱりわからない。なぁ教えて」  まるで俺の心に訊ねるように、壮馬の手のひらが胸の真ん中を撫で擦る。 「…………」 「俺はどんなことがあっても、鉄平と別れない。将来何かがあって、両親と鉄平のどちらかを選ぶ運命になったら、親を捨てることになるけど、迷わずに鉄平を選ぶ」  断言する言葉を吐いた壮馬をじっと見つめながら、考えを払いのけるように首を横に振った。 「そんなの駄目に決まってる。お前は知らないんだ。捨てられた家族の気持ちを。見捨てられた相手の気持ちを知らないから、無責任なことが言えるんだ!」  胸を撫でる壮馬の手を、ぎゅっと握りしめた。多分、痛みを感じるくらいに握りしめていると思う。 「確かに親には、これまでたくさん世話になってる。その恩を返さなきゃいけないのもわかる。だけど一度きりしかない、俺の人生なんだ。好きなヤツのそばにいて、最期まで添い遂げたいと思っちゃいけないのかよ」  熱いまなざしを注がれて告げられた言葉は、鼓膜の表面に貼りつくようにじわりと染み込む。  この言葉があれば、つらい別れがあっても生きていける。そう思えるものなのに――抗うことのできない秘めた想いが、口から零れ落ちるように衝いて出る。 「……壮馬だから好きなんだ」  嗚咽を堪えた俺の声は、とても小さなものになった。それなのに壮馬はそれを聞きとった瞬間、花が咲くように笑いかけた。 (どうしてくれよう。こんなに喜ばれたら、胸の内のすべてを洗いざらいに、今ここでぶちまけてしまうだろ) 「そっ、壮馬の全部が、好き。真っ直ぐに、俺を愛してくれ、るところと…か」  大切な一度きりの人生に、俺のような男を選んでくれた。過去のことを知っているくせに、それでも俺を選ぶなんて、奇跡みたいな話じゃないか。 「鉄平から進んで愛の告白してるのに泣きながらするとか、せっかくの感動のシーンが台無しだろ」  握りしめる俺の手を無理やり外して、両手で荒々しく頬を潰しながら撫でまくる。間違いなく酷い顔になっているだろう。 「こっ、こら、もっと優しく、宥めてくれ、よ!」 「宥めるよりも、キスがしたい」 「なっ!?」 「俺を好きって言ったその唇を塞いで、愛を確かめたい」  壮馬の手によって思いっきり潰された顔の状態で、噛みつくようなキスをされた。 「っぐ、う……」  荒っぽい行為自体は嫌いじゃない。抑えきれない情熱をそのままぶつけられているのを感じて、同じように興奮することができる。  だが壮馬の場合は熱が入りすぎると、力も同時に入るせいで、ただ痛いだけの行為に成り下がるという、悲しい流れになってしまうことがしばしばあった。  以前の俺なら興醒め覚悟で目をつぶって続行させていたが、胸の内を晒してしまった今なら、教育的な指導も可能だ。 (まずは手始めに、痛いくらいに顔を潰している手を外すところから――)  がしっと壮馬の両手首を掴んで、ギリギリと握りしめながら横に引っ張った。 「いてぇよ!」 「それはこっちのセリフだ。よくも俺の顔を潰してくれたな!」  唇の横から漏れ出た、どちらのものともわからないヨダレを拭ってから、痛む頬を撫で擦る。あと1分同じことをされたら、顔が変形していたかもしれない。 「そんなに痛かったのかよ?」 「何なら実体験させてやろうか」  素早く起き上がり、壮馬の頬を両手で包み込んでやった。 「ごめんって。悪気はなかったんだ」 「悪気がなければ、何をしてもいいのか? キスされる快感よりも、潰されてる顔の痛みのほうが強かったぞ」  壮馬の額に俺の額をぐりぐり当てて、ちゃっかりお仕置きしてやった。それでも痛みをちょっとだけ感じる程度のお仕置きになってしまうのは、惚れてしまった弱みだろうな。 「悪かった、そこまで痛いとは思わなかった。鉄平の愛の告白が嬉しくて、つい力が入っちゃった」 「ふっ。部下の失態は、上司の指導が悪いせいだからな。許してやるよ」  当てていた額を外して壮馬の顔を見つめながら、耳の上の髪の毛を左手で梳いてやる。自分とはまったく違う髪質を指先に感じつつ、気持ち良さそうに瞳を細める様子に、思わず笑みが零れた。 「しょうがない。上司兼先生として、壮馬にキスをレクチャーしてやるか」 「嫌だ」  教えようとした矢先に告げられた拒否するセリフに、テンションが一気に急降下する。

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