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両片想い8

「……せっかく教えてやろうと思ったのに」  壮馬に触れている両手を外そうとしたら、逃がさない勢いで握りしめられた。寄せられた顔から距離をとるべく、顎をくっと引く。 「嫌なんだよ。上司や先生じゃなく、恋人として教えてほしいから」 「恋人――」 「俺の片想いじゃないって知ることができて嬉しいところに、今までの関係をぶち込まれたら、思いっきり萎えるだろ?」 (そうか。コイツとは別れることを前提に付き合っていたから、俺の冷たい態度や距離感が、壮馬に片想いだと思わせていたんだ) 「俺は自分の気持ちをきちんと告げた。お前の気持ちを聞いてない」 「いつも言ってるだろ? もしかして忘れられちゃった感じ?」  目の前にある壮馬の顔が、してやったりな感じに見えて、内心ムカついた。  イライラするくらいにムカついているというのに、握りしめられた両手がじわりと熱くなる。もしかしたら、顔も赤くなっているかもしれない。こんなふうに壮馬に想いを言えなんて、強請ったことがなかったせい。  俺が強請らなくても、ウザいくらいに壮馬は心の内を晒していた。だからどれくらい想っているのかは、わかっているつもりだけど。 「お前の想いなんか、忘却の彼方だ」  まぶたを伏せて口にした瞬間に掴まれていた手を使って、ベッドの上に仰向けに押し倒される。突然のことに声を出せずに躰を強張らせたら、壮馬は颯爽と上に跨ってきた。 「忘れんなよ、俺の気持ち」  俺が逃げないようにするためなのか、肩のつけ根を掴んで顔を寄せる。 「さっきされた、痛いキスで忘れたんだぞ」  ふたたび痛いキスをされないようにと、睨みながら寸止めを試みた。 「謝っただろ」 「誠意が足りない」  ぴしゃりと言い放った俺の短い返答に、苦虫を噛み潰したような表情をありありと浮かべて、「汚たねぇな、くそっ」なんて呟く。 「壮馬、どうした?」  年上の俺を口で打ち負かそうなんて、百年早い。壮馬がもっと俺の操縦法を勉強すれば、今まで以上の関係を築けるだろうな。 「あ~もう! ちゃんと誠意を見せるから教えてくれよ」  片側の口角を歪ませて、心底嫌そうな顔で言葉をやっと告げた壮馬に向かって、満面の笑みで答える。 「わかってる。恋人としてな」  俺の微笑みを見た壮馬は、必死に真面目な顔を作り込んだ後に、大きく息を吸い込んだ。  目の前でおこなわれる仰々しい様子に、嫌な予感が俺の背筋を沿うように冷たく流れる。 「白鷺課長のことを愛してますっ! この気持ちは一生涯変わりません、誓います!!」  冒頭で名前呼びを否定した、俺の気持ちを考慮したんだろう。仕事で使う名字を使ってくれたのはいいが、予想以上にでかい壮馬の声を間近で聞いて、耳の中がキーンとした。  あまりに突飛なことをされたせいか、目を瞬かせるのがやっとで、すぐには二の句が継げられない。 「白鷺鉄平が好きすぎて、夢の中にも出てくるくらい大好きなんだよ。堪らないほど好きな想いをいつも伝えているのに、そうやってだんまりを決めこまれる俺の気持ちを、少しは理解してくれてもいいだろ?」 「……だからお前はあえて、自分の気持ちを告げずにいたのか」  言いながら壮馬の首に両腕をかける。俺の腕の重みで顔が近づくはずなのに、躰を強張らせてそれをしないようにされた。 「鉄平は、どんな気持ちになった?」 「言葉で表現するのなら、寂しいとか物足りないって感じかな」 「俺も毎回同じ気持ちになった。だから何度もこの想いを告げたんだ。ひとえに、鉄平の気持ちが知りたくて。だけど……」 「ぅん?」  こんなに傍にいるのに、俺の力を簡単になきものにする壮馬の力が憎らしい。微妙すぎるこの距離感が、俺たちの今の関係みたいだ。 「俺はやっぱり、いつまで経ってもガキだなって。鉄平は鉄平の立場で考えることがあるから、自分の気持ちを隠していたのを、なんとなくだけどわかった気がした。それなのに俺は――」 「お前はガキじゃない。俺の気持ちをきちんと考えた上で、理解しているだろ。それだけ大人になったんだな」  首に絡ませている片手で、後頭部を撫でてやった。 「壮馬、もう少しだけ顔を近づけてくれ。唇が触れる手前まで」 「これくらい?」 「ご褒美に、キスの仕方を教えてやるよ。おまえの恋人として」  指示したところにいる壮馬の顔は近すぎて、ぼやけてしまう。それでも目を開けたまま、柔らかい下唇をちゅっと食んでやった。 「ぁあっ!」  食みながらちゅくちゅく音を立てて吸い上げると、甘い吐息が漏れる。 「もっと感じて壮馬。愛してるんだ」  自分から告げることをあれだけ躊躇っていたのに、一度でも晒してしまったら、止めることができない。高まる想いのままに、溢れるように口から紡ぎ出てしまう。 「壮馬、愛してる。ンっ、愛して、るから」 「鉄平まだ足りない。たくさん言って」 「壮馬が好き、ずっと前から好きだった」  恋情を含んだまなざしで見つめられたあの日から、なぜだか気になって仕方がなかった。中学生相手にそんな感情を抱くなんて、正気の沙汰じゃない。  だけどそのわけは壮馬が俺の躰だけじゃなく、全部を愛してくれたからだろう。 「俺も鉄平が好っ」  顔の角度を変えて、壮馬の唇を塞ぐ。舌の裏側に自分の舌を差し込み、舌先を使って横に動かしてやった。 「ふぐぅっ…んぁっ」  すると壮馬も負けじと、俺の上顎に舌を滑り込ませてきた。だが俺に感じさせられているせいか、舌の動きがあまりよくない。くすぐったい程度に終わってる。 「ははっ、他にもまだまだレパートリーはあるぞ。全部試してみてから、俺がお前を掘ってやるか?」 「俺が抱かれるなんてことを、許すはずがないだろ。年寄りは黙って、そのまま横たわればいいんだ」 「まだ年寄りじゃない!」 「こめかみの傍にある髪の中に、白髪が見え隠れしてるのに?」  ぶちゅっという音とともに、こめかみに押しつけられた壮馬の唇は、苛立つ気持ちを宥めてしまうものだった。この場にそぐわないキスなのに、なぜだか気が楽になってしまう。告げられた腹立たしい言葉が、どうでもよくなった。 「坊ちゃんのせいで、苦労させられてるからな」 「鉄平の苦労を、快感に変えてあげるよ」  俺の文句もなんのその。感じやすい喉仏を食みながら、空いた手は胸元をまさぐる。 「あっ…いいっ」  焦らされた分だけ、感度が上がっているらしい。壮馬の吐き出す呼吸やちょっとざらついた唇や舌先、そして指先の小さな動きだけでも感じてしまい、腰から下が熱くてじんじんしてくる。 「この陥没してる乳首、なんか鉄平の気持ちみたい」 「へっ?」  小さく笑いながら、タップするように触れる。 「早く感じさせたくて、あの手この手で引っ張り出そうとしても、全然出ようとしない。だけどこうやって優しく入念に触ったり、舌先でくりくりして時間をかけたら、小さな蕾が膨らんで出てくるんだ。こうやって」  大きくなったそれを口に含むなり、吸いながら軽く噛む。 「いっ、……」  噛まれて痛いはずなのに、その痛みでさえも快感に塗り替えられてしまう。吸われるたびに一切触れられていない俺自身から、涙のように卑猥な汁が溢れ出た。 「いつもより感度がいいのは、酔っぱらってるせい? それとも俺に気持ちを告げたせい?」 「あ……はっ…ぁ、知ってるく、せに」  脇腹の肌をなぞる指を、思わず握りしめて止めてしまった。 「言わないとわからない」 「愛してるって言ったろ」 「他にも言いたいことがあるだろ?」  三日月の形をした壮馬の瞳がぐっと近づいてきて、顔の前で止まる。俺自身と壮馬の大きくなったモノが、一瞬だけぬるっと触れた。 「っあ!」 「ちゃんと、おねだりしないとあげない」  壮馬が滴り落ちる滴の滑りを利用して、互いのモノをゆっくりと擦り合わせる。  あからさまに煽る行為に、そのまま乗っかるのは正直なところ嫌だったが、破裂しそうなくらいに高まっている俺自身に、そんな余裕はなかった。 「やぁっあっ…そんな刺激じゃ、ぅっ、嫌だ。壮馬の大きぃのがほしい」 「嫌だと言いながらも細い腰を淫らに動かして、俺のに擦りつけていたくせに?」  口ではそんなことを言いつつも、俺の言うことを聞いて後孔にあてがう。 「ぁんっ、もぉ、早くいれてっ…。壮馬の愛にっ、満たされたぃ」  左右の膝裏を持ち上げながら、分け入るように挿いってくる壮馬のモノは大きいだけじゃなく、いつもより熱があるように思えた。その感覚を己の躰の中に感じるだけで、どうにかなってしまいそうだった。 「あ……っは…ぁ、ん…っも…だめっ!」  たった一瞬だけだったのに感じるトコロに擦れた刹那、俺自身が爆ぜてしまった。まだ挿入途中だというのにだ。 「鉄平、イクの早っ。俺まで巻き込もうとしてるだろ」 「ちがっ……、そんなんじゃ、ない。ぅんっ!」  二度目だと思えない白濁の量に、何だか気恥ずかしくなってしまう。しかも快感が未だに躰を駆け巡っているせいで、まともな受け答えができずにいた。 「ただでさえ締まりがいいのに、イキながらぎゅんぎゅん絞めつけられたら、俺だってヤバかった」  言いながら腹の上にぶちまけた白濁を、傍にあったティッシュで綺麗に拭い取ってくれる。 「挿れてる最中なのに悪い……」 「鉄平の中に、俺のが馴染む時間だと思えばいいかなって。動いても大丈夫?」 「好きにしっ――んあっ!」  俺が答えかけたときには、壮馬のモノが更に奥を目指して、ぐいっと強引に押し込まれた。 「そう言うと思ってた」 「っ、だからって、いきなり動くなんて、すっ…するな」  ぐちゅぐちゅという音とベッドの軋む音が、一緒になって響き渡る。あまりの激しさに、眩暈がしそうな勢いだった。 「もうそれ以上挿らないっ、そんなに突くな!! あぁっ!」 (俺の馬鹿! どうしてワインのボトルを、全部空けちゃったんだ。酔ってるせいでイったばかりだというのに、すごく気持ちよすぎる) 「好きにしろって言ったのは、鉄平からなのに。こうして貫かれるのが、たまらなくイイんでしょ?」  壮馬は両手で持ってる俺の両膝を軽々と持ち上げながら角度をつけるなり、上から突き刺すように激しく出し挿れする。 「あ……やぁっ、あああぁ!」  繋がってる部分から、壮馬の熱が想いと重なって、俺の躰にじわじわと伝わった。全部が蕩けそうなほどの熱量に、喘ぎ声がずっと止まらない。 「そぉまっ、壮馬す、好き……、愛して、るっ。ん、ふ、あぁ……もっと俺で、感じて」 「本当は鉄平が感じやすい、バックからしてあげたいけどっ。エロい顔が見られないのが嫌だから、これでたくさん、感じて、くれよな」 「恥ずっ…じっと見ないで、やぁっあっ…」  顔を横に向けても、壮馬の視線は俺に釘付けなのは必然で――。 「好きな男の顔くらい、いつ見たっていいだろ。俺ので感じて、顔を真っ赤にしてる鉄平が好きなんだ」  普段は俺にやり込まれるのに、こういうときだけは優位に立つ。そういうところも、憎らしいくらいに好き。 「んっ…は…ぁっ……!」 「そんな物欲しそうな顔して啼かれたら、朝一で会議があるのを知ってるのに、ほどほどになんてできるわけがない」  壮馬の動きに合わせて、俺も腰をしならせた。コイツにこれ以上、好き勝手なことをさせたりなんてしない。負けないくらいに翻弄してやるんだ。 「ちょっ、いきなり」 「ふ、あぁ……、好きな男を感じさせて、やりたいんだっ、わかれよ」 「そんなことされたら、俺だって鉄平をもっともっと感じさせたくなるじゃないか。せいぜい、明日の心配でもすればいいんだ!」  持ち上げていた膝裏を投げ捨てるように下ろし、左右の肩をベッドに押しつけるように掴まれた。 「くぅっ! 明日の心配って、何をする気だ?」 「とりあえず最初は正常位からはじめて、鉄平の反応を見て他にもいろいろ試してみようかなぁって」  嫌なしたり顔をしながら告げられたせいで、容赦なく責められることがわかったが、時すでに遅し――。  パンパンという肌と肌がぶつかる音が部屋中に響き渡る中で、俺が快感に身を震わせているうちに壮馬が達したのだが、息つく間もなく淫らな行為が続行されたのだった。

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