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第148話

「………で?」 ソファの上でクッションを抱きしめボーッとし続ける渉へ本日分の仕事が終了したのか、優一が声をかけた。 「話、聞いてくれんの⁉︎」 パァーっと暗かった表情を明るくして身を乗り出す渉に優一が嫌そうに顔を顰める。 「聞くも何も聞くまで帰らねぇつもりだろ?」 「うん。聞いてもらうまで帰らない」 変な強気発言にげんなりするなか、優一は大きな溜息を吐きながら一人キッチンへ入って缶コーヒーを二本持ってきた。 二本ある内の一本を渉へ投げて寄越すと、一人用ソファへドサリと身を沈める。 少し長くなった紅茶色のサラサラした前髪を掻き上げて吐息を漏らす姿に相変わらず、いい男だなと渉は見惚れた。 「で?なんだよ。早く話して帰れ」 ギロリと睨みつけ、身も蓋もない迷惑そうな口調に渉は苦笑いすると目の前の男を足の先から頭のてっぺんまで見上げた。 「優兄って、ほんっと憎ったらしいほど完璧だよね…。欠点とかないの?」 「……」 「一回、咲也の目の前でドジ踏んでくんない?人間味溢れる姿、拝ましてよ」 「……」 「優兄みたいなのが側にいたらマジで勝ち目がない……。俺もそこそこ人気あるし、結構自信あったけど……」 嫌味が懇願へ代わり、最後は涙を浮かべて愚痴る言葉を閉ざした渉に優一は溜息を吐きながら言い放った。 「俺ほどの完璧な人間と張り合えるわけねーだろ。ばーか」 頭の悪い奴だと見下ろす優一の冷ややかな瞳と目が合い、渉は悔しいと健気にも睨みつける。 そんな飼い犬が噛み付いてくる仕草に優一は口元を笑みにした。 「アホ。本気にすんな。完璧なわけないだろ。俺にだって欠点はあるし、みっともない姿、晒すことだって人より少なくてもなくはない」 缶コーヒーの蓋を開きながら告げる優一は相変わらず偉そうだが、何処と無く優しい空気が漂っていた。 「………優兄、なんだか変わったね」 コーヒーを飲む優一を見つめながら渉が呟く。そんな呟きに優一が笑った。 「そりゃ、俺には可愛い可愛い愛しの天使がいるからな。あいつの為なら何でもするよ」 肩を竦めて冗談っぽく告げる優一だが、この言葉が真実なことを渉は何と無く感じとった。 「例えば?」 「…そうだな。綾ちゃんに盲目過ぎて、弟の目の前で号泣もしたし。親の前で跪いてプロポーズだってしたさ」 みっともないだろ?と、苦笑した優一が眩しすぎて、渉は歯を食いしばった。 何をしても何をやらしてもソツなくこなし、いつも笑顔で輪の中心にいた優一は冷めきった男だった。それがカッコよくも感じたが憎らしくもあった。 だけど、心の底の本心は羨ましかった事を渉は自覚していた。 九流家の親からも兄からも信頼され、頼られてその多才な才能を発揮しては皆の期待に応え続けたこの男をとても尊敬していた。 だから、咲也が優一を支持する気持ちが分かるし止めることをできなかった。 でも…… だけど…… この男に負けたくない 勝ちたい ギリリと奥歯を鳴らして拳を握りしめた時、優一に心の中を読まれたような言葉をかけられた。 「お前は余計なものに囚われすぎだよ」

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