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第150話
「……」
カッキーンっと、凍てつく渉を前に婚約者と名乗った女の子は眉間に皺を寄せ、渉へと近付いた。
「な〜に?渉?なんか、あんた変よ?」
ぴしぴしと、渉のおでこへ薄いピンクのネイルが施された指が攻撃をする。
その小さな攻撃に渉は我に返って声を上げた。
「れ、れ、れ、麗美‼︎」
「何よ。そんなにどもって。っていうか、驚き過ぎじゃない?浮気でもした?」
腰に手を当て、首を傾げながら呆れた口調で言ってのけるのは幼少の頃、九流家が決めた渉の婚約者、長谷川 麗美(はせがわ れみ)だ。
見た目の美しさと比例するように性格も良く、渉の母親の理恵とも仲が良い。
そして……
「咲也は元気にしてる?おばさまから聞いたけど咲也の潔癖症が改善されてるんだって?」
腕を掴まれ無理やり車の中へ入れられた渉は麗美に苦笑いしながら頷いた。
麗美はあの気難しくも無愛想な咲也とも上手に仲良くできる女だった。
気さくで優しい彼女は幼い頃から根気強く咲也に接していた。
そんな甲斐あってか、咲也も麗美には別段、冷たい態度を取ることもせず、むしろ遊びにまで誘うようになった。
いわば、咲也にとって唯一の女友達でもある。
「あ……、うん。咲也も元気にしてるよ」
「それなら良かった!また一緒に食事しよって、伝えといて」
「………うん」
歯切れの悪い渉の返答に麗美が眉根を寄せる。
「なーに?渉、さっきからおかしくない?」
「いや、いきなり麗美が来るから驚いてるだけ……」
色々、己の中で整理を付けなくてはいけないと渉は混乱する頭でなんとか平常心を取り繕う。
そんな中、明らかに動揺する渉を尻目に麗美はそれ以上、何も言うことなく窓の景色へ視線を向けた。
自分の気持ちが落ち着くのを待ってくれているのだ。相変わらず、優しい気配りのできる麗美に渉は安堵と共に居た堪れない思いに頭を悩ませた。
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