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第151話
少し心が落ち着いた渉は窓の外を眺める麗美へ視線を向けた。
5歳の夏、咲也といつものように家の子供部屋で遊んでいた。その時、母が客人の娘だと言って俺の前へ麗美を連れてきた。
自分より頭一つ分、小さな女の子はとても可愛い容姿で目を見張った記憶がある。
隣に立つ咲也が麗美へ毒を放つまで惚けた程だ。
初対面は咲也のせいで散々だったが、何を気に入ったのか、麗美は懲りずに九流家へと頻繁に訪れるようになった。
中学一年の冬、咲也が優一と喧嘩したと家に泊まりに来ていた時、麗美も九流家へと遊びに来た。
優一にコテンパンにされて泣き崩れ、そのまま寝落ちした咲也をベッドへと運んでいた時だ。
『渉が好き……』
ぽつりと発せられた震えた声に振り返ると、いつも天真爛漫に笑う彼女が顔を赤く染めて小さな女の子に見えた。
麗美の新鮮な反応に可愛いと思った
そして、その瞬間俺の中で将来の計算が行われた。
咲也と仲良くできる女は早々いない
それなら……
『俺と婚約する?』
家柄良し。容姿良し。性格良し。親同士も仲良しで自分の厄介な幼馴染みとも関係は良好。
生涯の伴侶で何一つ申し分ない。と、あの頃思った。
そんな打算的な俺に麗美が俯く顔を上げ、『女の子』の表情で微笑んだのに、あの頃の自分は人の気持ちも考えられない、ただただ軽い気持ちで幸運が舞い降りたぐらいにしか物事を受け取れなかった。
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