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第152話

麗美は俺が他所で火遊びをしていても口出ししない器量の持ち主でもあった。 街で偶然女の子と腕を組んでいる場面に遭遇しても他人のフリをして俺の横を通り過ぎ、会う約束も我儘な咲也のせいでドタキャンを繰り返す事があっても文句一つ言わない女だった。 二人で会うこともあったが、九流家や咲也を優先し、他者と共有する時間をわざわざ持ってくれる彼女は本当に良くできた『婚約者』で、渉は感心しては頭が上がらなかった。 そんな麗美に泣きながら詰め寄られた事が一度だけあった。 中学三年の時、何かの祝いで家へ来た麗美が九流家に泊まっていった時の事だ。 夜中に渉の部屋へくるなり、抱きついてきたと驚いた時、不安だと涙を流された。 婚約者がいながら初体験を中1で他所で済ませた渉は麗美へ触れる事は一度もなかった。 特別扱いしなければいけない考えと、『婚約者』という錘が枷となり、渉の欲望にブレーキが掛かっていたのだろう。 『今は何も言わない。渉が色んな女の子と遊んでても構わない。だけど…』 抱きついて涙を流す麗美は渉へ乞うように訴えた。 『最後は私を選んで…。私だけのものになって……』 我慢に我慢を重ねた麗美の本音だったはずなのに、渉は軽い気持ちで笑って頷いた。 『本当の恋』や『本気の気持ち』を知らない無知で幼い、浅はかな己の言動に渉は今、心から深く後悔する事になる。 咲也に恋していたのは恐らくずっと、ずっと前の事…… 自分でも把握出来てないほど無意識に恋していたのだ。 だから…… 麗美を『婚約者』に選んだ。 父でも母でもない。 咲也をよく知り、咲也に気に入られた彼女を選んだのだ。 自分の中でも分かっていなかった恋心が今、爆発した。 彼女はこんな俺の恋心に気付いているのだろうか? だから、咲也を無下にしてこなかった? グルグルと頭の中を巡る思考に渉は頭痛を覚え、こめかみを押さえて息を小さく吐いた。

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