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第3話

「さーくーやぁー!」 掃除を終え、帰宅しようと校門を出たとき、よく知る男の声に咲也は振り返った。 そこには生まれた時から幼馴染みで気心の知れた咲也の唯一の友人である九流 渉(くりゅう わたる)が苦笑混じりで立っていた。 「……何?」 無表情にて渉を見上げると、幼馴染みはバツが悪そうに口を開いた。 「女の子のこと、凄い酷い振り方したんだって?」 肩を並べて共に帰ろうとする渉に咲也はふんっと顔を背けて悪びれなく言い放つ。 「酷いも何も真実を伝えただけだ。俺の事が本当に好きなら、俺が兄様しか好きじゃないって情報ぐらい持ってて当たり前だろ。それを知らずにいるならリサーチ不足なんだよ。つーか、あの雌ブタ言いふらしてるのかよ!?」 口の軽い女だと罵る咲也に女子への扱いを説教してやりたかったが、この男相手に無駄と察した渉は携帯電話を咲也へ見えるように翳し、確実にこの男が飛びつくであろう話題を口にした。 「……その兄様から収集かかったぞ」 「えっ!嘘っ!!」 案の定、目の色を変えて食いついてきた咲也は渉の携帯電話を奪い取り、表示されているメールへと目を走らせた。 『来年の生徒会メンバーを紹介するから明日、正午に立春高校生徒会室へ来い。遅れたらシバいて蹴る。あと、咲也にも伝えとけ』 連絡というより命令に近い呼び出しに渉はなんだかなと失笑したが、咲也は目を輝かせて歓喜した。 「マ、マジで!明日兄様に会える!!つーか、やべぇ!!!このメールに俺の名前打ち込んでくれてる!渉、俺に転送して!!」 可哀想なぐらい感動レベルの低い兄貴一直線の咲也に渉はいつもの事ながら、溜息を吐いてメールを転送してやった。 それを自分の携帯電話にて確認すると、咲也ははにかんだ顔で永遠そのメールを見つめ続けた。 「あぁ〜〜〜。この文章、兄様が打ったんだ!俺の名前打ってくれた!幸せ過ぎる!!」 「いや、普通の内容だろ」 「違う!咲也じゃなくて、弟とも打てるとこを兄様はわざわざ俺を想って咲也って打ってくれたんだ!分かんねーのかよ、この馬鹿!」 絶対そんなことまで考えてないと渉は心の中で呟いた。 どちらかと言うと、メール一つでここまで喜ぶ実の弟へ連絡しない兄の薄情さに何とも思わない咲也に感服した程だ。 「とりあえず、明日休みだし一緒に行く?」 「いや、ちょっと寄るとこあるから明日は無理。お前はお前で行け」 スキップでもしだしそうなぐらい上機嫌の咲也は携帯電話をニマニマ眺めながら、家からの迎えの車へと乗り込んだ。 「んじゃ、また明日な!」 稀に見せない満面の笑顔で手を振る咲也に、渉は目を丸くしなが去っていく車を見送った。

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