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第8話

暫くして綾人はわなわな震える指先で自分を差してきては、鈴の様な声で聞いてきた。 「……僕と君って初対面だよね?」 容姿と見合う愛らしい声が憎い。 声ぐらいガラガラで耳障りなら良かったのにと咲也の瞳が細められた。 その想いは綾人へよりキツく当たる事となる。 「こうして顔を合わせるのは初めてだな。こっちは大切な兄がお前のような豚の為に怪我をしたから病院にてその汚い面は何となく知ってはいたけど!」 耳を塞ぎたくなる程の口の悪さに綾人は再び硬直したが、思い当たる事故が頭を過ぎり、すかさず頭を下げた。 酷い物言いだったが、大切な身内が自分のせいで傷付いたのだ。非があるのはこちらと綾人は謝罪した。 「その節は大変なご迷惑をお掛けしました!ごめんなさい…」 殊勝な態度の綾人ではあったが、咲也の悪態は止まらない。 「謝って済むと思ってんの?つーか、本当に悪いと思ってるなら兄様の前から消えろ!このゴミ!!周りから可愛いってはやし立てられてるらしいけど、天狗になってるなら思い上がりもいいとこだ!そのブッサイクな顔面鏡でも見て整形しろ!バーーーカッ!!」 あっかんべーっと、止まらない罵りは綾人のみならず、周りの人間の思考をも奪い取るようなものだった。 この兄以外は… 「綾にそれ以上何か言ったら半殺しにするぞ」 バキッと兄に頭を殴られ、咲也は忠告を受けた。それに加えて離れろと体を突き飛ばされる。 「兄様……」 離れたくないと直ぐにまた抱きつこうとした瞬間、優一は落ち込んだ綾人の手を引っ張って抱き寄せた。愛おしむようにこめかみへとキスをし、何かを優しい声で綾人に囁く兄に咲也は目を疑う。 今まで側にいた女共もこうして暴言を吐いてはきた。だが、兄はそんな女達を庇うこともなければ慰める事もしてこなかったのだ。 それをこんな守る様な対応を見せつけられ、咲也は頭を鈍器か何かで殴られたような錯覚に陥った。 次に我に返った瞬間、強烈な殺意が自身の胸の内に渦巻く。 呪い殺せるものなら殺したいと綾人を射抜くように睨みつける。 そんな自分に気が付いたらしく、綾人は優一の側をそっと離れていった。

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