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第10話
「来年入学する門倉 咲也です。風紀委員長の任務に就きます。門倉 優一の弟で、兄様以外に触れられると嫌悪しか感じないので俺には一切触れないよう願います」
刺々しくも嘘偽りのない自己紹介を終えると、咲也は最後に綾人を睨みつけて付け足す。
「あと、白木 綾人。兄様に馴れ馴れしくするなよ!目障りなゴミめ!」
名指しで命令するように再び罵しると、困惑する綾人を見た優一が溜息と共に咲也へもう一発、分厚いファイルを投げ飛ばした。
「ギャアッ!」
バコんっと、顔面的中するそのファイルは床へと落ち、咲也は両手で顔を覆って机の上へと突っ伏す。
それを白い目で見ていた幼馴染みの渉が肩を竦め、この殺伐とする空気を変えるよう極力明るい声にて自己紹介をした。
「九流 渉です!来年入学します!会計担当で、たけ兄とは兄弟でざっちゃんとは義兄弟でっす!頑張るんでよろしくお願いしまーす」
人懐っこく、親しみを持ちやすそうな渉に空気はほんわかとしたものへと一変した。それに対して、ありがとうと言わんばかりに体育委員長である神楽が挨拶をした。
「二宮 神楽、来年三年になる。九流と優一とは同じクラスで優一に生徒会へ誘われたんだ!前から興味はあったから嬉しい誘いに感謝している。一年間よろしく」
とても美麗な容姿からはスポーツマンの印象はないが、あの兄の推薦だと知った咲也はそれならば仕事は出来るのであろうと目を向けた。
そして、最後は愛して止まない自慢の兄である優一の自己紹介だった。
咲也は携帯電話を取り出すと、こっそりカメラのビデオモードを立ち上げて優一を隠し撮りした。
「門倉 優一。来年三年。今期の生徒会長職に就いてました。来年は副会長の職に就きます。愚弟が迷惑かけると思いますがビシバシ指導してやってください。後、白木 綾人に関しては恋人同士なので彼には手を出さないように」
にっこり笑って綾人との関係をオープンにする優一は自分を隠し撮りする変態弟を睨みつけると冷ややかな声にて告げた。
「綾にいらないことしたら分かってるだろうけど、半殺しじゃ済まさねーからな」
既になかなかな悪態をついていてはやらかしている咲也に忠告する。
それに対し、咲也は華奢な銀色の眼鏡のフレームを中指で押し上げて不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「んじゃ、自己紹介も終わりでいいな。来年から一年間このメンバーで学園を盛り上げよう!よろしく」
優一が立ち上がり、最後の締めの言葉を言うと全員立ち上がって拍手した。
こうして無事、本日の顔合わせを終了させて解散となり、綾人にざくろ、そして二宮は速やかに生徒会室を出て行った。
部屋に残った咲也はというと、兄を目の前に直ぐに帰るわけもなく、久々の優一との再会に目を輝かせた。
「兄様っ!今日こそ俺のこと抱いて下さいっ‼︎」
ガバッと勢いよくダイブすると、気色悪いっ!と優一にて回し蹴りを決められる。
モロにその蹴りが右頬へと炸裂し、吹っ飛んだ咲也は受身を取ることが出来ずに気絶をしてしまった。
「……優兄。手加減してやんなよ」
地面で伸びる幼馴染みを前に渉がボヤくと、優一は全く心配する素振りもなく椅子へと腰掛けた。
「そいつサッサと連れて帰れ。起きるとまた厄介だから」
本当に鬱陶しそうな優一の姿に渉は咲也へ同情した。
「悪いけど、今日は予定あるから無理。気絶させたのは優兄なんだから、ちゃんと介抱してやってね!」
べっと舌を出してそう言い残すと渉は逃げるように生徒会室を出て行った。
会いたい、会いたいといつも寂しげに優一を想っていた咲也に対してのほんの少しばかりのエールのつもりだった。
だが、これが要らぬ引き金になることを渉はまだ知らない……。
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