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第17話
「ゆう兄に何言われたか知らないけど、お前らしくないぞ!いつもみたいに気にすんなよ!」
ポンポンっと咲也の肩を叩いて励ます渉は驚く。
いつもならこの手を払いのけられるはずなのに、今日の咲也は俯いたまま反応を示さない。
「……咲也?」
不審に思って咲也の隣へ腰掛け、顔を覗き込むように顔を見る。
すると、見惚れんばかりの人形のように整った顔がまた一筋涙を流した。
「渉、どうしよう…。兄様が取られる……」
「取られる?」
眉間に皺を寄せて聞き返すと、眼鏡の奥の瞳から涙を溢れさせて咲也は悲痛の叫びを上げた。
「あいつに……、あの白木綾人に兄様を取られるっ!あんな兄様、初めて見た!!俺、俺……」
寮にて起こったあの兄の綾人への執着振りを思い出した咲也はかぶりを振って小さな子供のように駄々を捏ね始めた。
「嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!兄様は誰のものにもなっちゃダメなんだ!あんな奴、どっかいけばいい!消えろ!!死ねよっ!!!」
頭を抱え、自分のサラサラの髪を鷲掴んで咲也は兄に求められ熱に涙を浮かべた綾人を瞼の裏に蘇らせる。
「咲也!落ち着けよ!!あのゆう兄が本気とかないだろ?」
渉もまた咲也の兄、優一がどういった人間なのかを知っている手前、本気の恋愛をしているとは到底思えなかった。
実兄の猛から「恋人」を作ったとは聞いていたが、どうせ彼のよく起こす気まぐれの一つと踏んでいた。
それに、形ばかりの許嫁も優一にはいる。
相手が女ならまだしも、あの門倉家の嫡男が子孫も残せない男に熱を上げるなど損得感情で動き、計算尽くされるあの優一がそんな愚かな一時の感情に流されるなどあり得ない。
高校を卒業すると同時にどうせあの天使とは縁を切ると考えるのが自然だ。
そうだろう?と、動揺する咲也へ落ち着かせるように言うと咲也は言葉に詰まって口を閉ざした。
「ほら、気にするなよ。どうせいつものゆう兄のお前への嫌がらせだよ」
わしゃわしゃと頭を撫でて言い聞かせる渉に咲也は胸を占める大きな不安に押し潰されそうだと歯を食いしばって身を固めた。
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