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第19話
時刻はもう直ぐ0時を指す。
事の真相を知りたくて優一へ電話を掛けたかったが、知り合いと言っても親しき仲にも礼儀あり。
こんな深夜に電話は掛けられないと実の兄である猛へと電話を掛けた。
「あっ!たけ兄?オレオレ、渉〜」
意外と短いコール音の後に猛は電話に出た。
渉は人が居ないことからリビングにてコーヒー片手にソファへと腰掛ける。
「あのさ〜、ちょびっと教えて欲しいんだけど。ゆう兄のあの恋人の綾ちゃんって何者?」
もう少しオブラートに包んで聞いた方が良いのかもしれない。が、敢えて単刀直入に聞いてみた。
すると、人を見る目にとてつもなく厳しい兄が意外な言葉を放つ。
『努力家でいい奴だと思うけど。門倉の野郎には勿体無い』
なんと、かなりの高い評価に息を呑む。
「……ふーん。ゆう兄って綾ちゃんに本気とか言わないよね?」
これはやめてくれと、平常心を保ちつつも心臓をドクドク鳴らしながら聞いた。
『……さぁ。俺が見た限りでは相当な熱の入れようだけどな』
それだけ聞くと、渉は兄との電話を切ってこめかみを押さえてうな垂れた。
咲也の不安が的中している。
あの兄が言うのなら間違いないのだろう
優一が綾人へ本気なことをこの時、渉は改めて認識した。
だが、だからと言って自分にはどうする事も出来ない。
優一の恋路を邪魔する事も猛が認める努力家でいい奴の綾人を貶める事もする気は無い。
ただ、咲也を思うといたたまれなかった。
兄至上主義者の咲也は本気で優一に惚れている。
好きで仕方がないというのをもうずっと側で見続けているのだ。
気持ちを汲んで応援してやりたいと思った。
だけど、実の兄弟なだけあってそれは大っぴらに応援できるものでもなかった。
それに加えて、優一は女の子が大好きなノーマル。
それなのに今回の恋人が男という事に渉はかなり驚いている。
「なんだか、ややこしいな……」
平和主義の自分としては揉め事は起こしたくない。皆が笑顔でいられることを願った。
が、今回ばかりはそうもいきそうもないなと大きな溜息が漏れた。
明後日の立春高校のクリスマスパーティーは来年度の生徒会役員は手伝いに行かなくてはいかなかった。
つまり、自分も咲也も出席する。
兄の言う努力家でいい奴と評される綾人と咲也が怯えるほどの優一の変わりようをこの目で確認しようと、渉は深く息を吸い込んで意気込んだ。
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