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第25話
「は、はじめまして……」
ぺこりと頭を下げる綾人に善の視線が注がれる。
目と目が合うと、緊張する綾人に善が優一と良く似た柔らかな笑顔を見せた。
「この優一がここへ人を連れてくるとはな……。あの九流のガキ以来だ」
面白いものを見たと優雅に笑う善が言っているのは恐らく、優一の幼馴染みであり親友の九流 猛のことであろうと皆の合点がいく。
「お爺様!こんな奴、追い出して下さいよ!」
ドドドドッと廊下を走り抜ける足音と共にリビングへ乗り込んできた咲也が綾人を指差し怒鳴り声を上げた。
それに対して優一が黙れと命じると、口を閉ざした咲也に代わり、物言いたげだった幸雄が口を開いた。
「咲也の言う通りだ。年末年始というこんな時期に招かれざる客を家へ入れるな」
冷やかな言葉は綾人を貫く。
父親相手に流石の「命令」も下せない優一は祖父へと目を向けた。
「爺様は?俺が恋人だと連れてきたこいつを招いてはくれませんか?」
ビリリと震えるほどの辛辣な空気を醸し出す孫に善が薄茶色の瞳を閉ざしてクスクス笑った。
「珍しく、わしを呼び出したかと思えばこういうことか…。良かろう、白木綾人の滞在を認める。これはわしからの命令だ。ただし、このわっぱがお前にそぐわないと分かれば直ちに追い出すからな」
そう言い残すと善はソファから立ち上がり、部屋を出て行った。
優一も綾人の手を引いて自分の部屋へと向かおうとした時、母親の凛(りん)が現れた。
「優一さん。お客様のお部屋を用意したわ。そちらへ……」
「綾は俺の部屋で泊まるからそういうのはいらない。適当にするから放っておいて。っつーか、咲也を俺の部屋に近付かないで」
この家ではこれが一番厄介だとボヤく優一は母親の前を横切って綾人とリビングを離れていった。
そんな兄の言葉を無視し、駆け足にて優一の後を追い掛けると同時に、咲也は気心の知れた唯一の友人である渉へ電話をして呼び出した。
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