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第26話
「あのさ……、俺も一応忙しいんだけど……」
12月末のクソ寒いこんな時に当たり前のように一言、「来い!」とだけ言われて切られた電話に律儀にやってくるのは咲也の幼馴染みの渉ぐらいだ。
来慣れた門倉家の入り、難しい顔で優一の扉を睨みつける咲也を呆れた口調で聞く。
「あのさ、兄貴の部屋の前でこうして待ち伏せするとか虚しくない?」
「虚しくない!っつーか、この扉ガンガン蹴っ飛ばせ!」
扉を指差し命令してくる咲也に渉が嫌だと肩を竦める。
「そんなんしたら、俺がゆう兄にしばかれるだろう」
「しばかれるぐらいいいだろ?何してんのか気になって仕方がないんだよ!」
「普通にノックしたら?」
コンコンっと扉を鳴らす渉に咲也がドキドキしながらその行為を見つめた。
部屋に近付くなと命じられ、自分ではどうしようも出来ない咲也は渉を呼んだ。
兄が本気で怒ればいつも何かと仲裁に入ってくれる唯一の自分の味方で今も兄の部屋を叩けない自分に代わって叩いてくれた。その事に感謝する。
少し待っても中から返事は返ってこなくて渉が再度、扉を叩く。
それでも返答はなく、焦れた咲也がダンダンダンッと拳で扉を叩いた。
すると、中からかけられていた鍵がカシャンッと開く音が聞こえ咲也の顔が笑顔になった。
「兄さ…ま……」
兄へ飛び付こうとした咲也だったが、途端笑顔は固まり目の前の優一のあまりに乱れた姿に心臓がドクンっと大きく波打った。
その姿は上半身裸の下半身もベルトとボタンは外され、明らかに情事に更けていたと言わんばかりの熱情を孕む瞳で、咲也だけでなく渉もその色香に目を奪われた。
「二人してなんだ?しょうもない事だったらブッ殺すぞ」
気怠げに前髪を搔き上げる優一の美麗さに二人がゴクリと喉を鳴らすと、咲也が震える声で兄へと手を伸ばした。
「嘘でしょ…、またアイツを……」
抱いているのかと、瞳を縋らせると優一は口の端を持ち上げて、冷やかな目で弟へ吐き捨てた。
「またも何もあいつのことはもう、数え切れないぐらい抱いてる」
そして、これからも抱くと囁く兄が扉を閉めようとして咲也は数日前のように気を動転させた。
「いや!嫌だ!!ヤりたいだけなら、俺を抱いて!兄様になら何をされてもいい!絶対耐えるからっ!お願いします……」
あいつは嫌だと泣き崩れて足に縋りついてくる咲也を優一は蹴飛ばすと、憤然と吐き捨てた。
「そこまで言うなら他の男、100人ぐらいに抱かれてこいよ。ドロドロに溶かされて開発でもされてみろ。そしたら、ご褒美のキスぐらいならしてやるよ」
鼻で笑って遇らう優一は最後に渉へ視線を向けたあと、扉を閉めて鍵を掛けた。
その閉ざされた扉の音が咲也の耳に木霊し、絶望に近い条件に涙を流した。
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