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第28話

「わ、渉……」 幼馴染みの言葉にほんの少し冷静さを取り返したのか、咲也の戸惑いを含む声が名を呼んだ。 渉に腕を引かれ、兄と同じように茶色を基調とした自分の部屋へと連れてこられる。 「ローションとかある?あと、目隠しできそうなもの。タオルでもいいよ」 「えっ!?」 幼馴染みからの無遠慮かつ、艶めかしい台詞に咲也が顔を赤くして声を張る。 「なに?怖気付いたわけ?やめる?」 冷たくも熱を孕む黒い瞳を向けられて、咲也は言葉に詰まった。 渉と自分。認めるのは癪に障るが、渉は信用に値する男でいつも自分を色々なことから守ってくれていた。 二人の兄を持つこの男はいつも少し自信がなくていつも少し悩んでいたが、どの兄弟の中でも一番温かくて優しい気の許せる男だと咲也は感じていた。 「わ、渉とはこういうことしたくない……」 大切な友人で大切な幼馴染みで自分にとってかけがえのない存在なことを咲也は分かっていた。 嫌いではないし好きは好きだ。だからこそ、こういった一線は守るべきだと思える。 「咲也は本当、我儘だよな…」 俯く咲也を捕らえるように歩を進めて責める口調で渉が続けた。 「ゆう兄には兄弟の壁を越えて欲しいと願って、俺とは友人の壁を乗り越えられないと言う。ちょっとはゆう兄の心情も察してやれば?」 いつも自分のことばかり必死の咲也に温厚な渉も段々イライラしてきた。 その理由はもう分かっている… 恐らく、咲也がどれほど泣いて嫌がり自分を拒否したとしても、今日、俺は咲也を抱く。 好きかと聞かれたら分からない ただ、嫌いじゃない これが恋かと聞かれたら答えらない ただ、抱きたかった…… この男を この幼馴染みを この綺麗な男をただ抱きたいと思った 「いい加減、腹くくれよ。兄様のように抱いてやるからさ」 一歩踏み込めば後ずさる咲也を優しい笑顔でベッドまで追い詰めていく。 経験豊富な渉の意図に気付かない咲也はまんまとベッドの上へと誘導されてしまった。 「目を瞑って。咲也はゆう兄を想ってたらいいよ」 大きな掌で自分を惑わす紅茶色の両目を塞いだ。すぐ側に落ちていた白いフェイスタオルに手を伸ばし、そのまま手早く咲也の目を完全に覆う。 「咲也……。俺を兄様だと思い込め」 魔法をかけるように何度も何度も耳元で囁くと、小刻みに震えていた咲也が縋るように渉の服の裾を掴んできた。 「……初めてだよな?」 確認するように聞くと、震えた声が答える。 「初めて…。兄様にしか触らせない……」 その言葉に咲也はもう渉ではなく、優一を見ていることに気がついた。 胸がほんの少し騒ついたが、そんな事に囚われるなと自分を言い聞かせた渉は熱い吐息を漏らして、咲也へと覆い被さった。

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