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第33話
「兄様!あけましておめでとうございます!!」
体調を整え、お風呂に入った咲也はジーパンにボーダーのトレーナーを着て毎年10時に行われる挨拶へ間に合うようリビングへと向かった。そこで祖父の善と談笑する兄を見つけるや、満面の笑顔で飛びつく。
「おめでとう、咲也」
目が潰れそうだと思わんばかりの輝かしい笑顔を見せてくれた兄に咲也は今年は良い年になると確信する。
そして、昨夜の情事で兄に抱かれたと錯覚を持つ咲也は顔がニヤけるのが抑えられなかった。
「お前は相変わらず、優一にべったりだな。そんなんで寮生活が出来るのか?」
兄様、兄様とへばりついては離れない孫に呆れた声をかける善は咲也ではなく優一を見やる。
「まぁ、一年間は俺も在籍してるし鍛えときます」
祖父の視線に求められた返答を告げると優一はソファから立ち上がった。
「じゃあ、俺は綾と初詣でも行こうかな。母さん、夕飯はいらないから」
毎年、門倉家は朝の10時から家族で挨拶と共に朝食と昼食を重なり合わせるように何種類ものの御節を囲んで食事をとる習慣があった。
その後は茶室に移って母のたてるお茶を飲むのだが、それらの予定を全て覆す発言をする優一に一同、顔を上げた。
中でも激しく驚いたのは咲也でリビングに絶叫が轟く。
「えぇーーーー!!どうしてですか!?」
「……どうしてって、ここに居ても暇だし。せっかく綾ちゃん来てるし」
うーんっと、背伸びをして飄々と答える兄に咲也が側にいた祖父と両親へ止めるよう呼び掛けた。
「お爺様!父様も母様もいいんですか!?ちょっと勝手すぎます!」
咲也の悲鳴に両親は本当だと口を開いたとき、善が悠然と言い放つ。
「優一、夕食だけは皆でとろう。白木君も一緒にな」
逆らう事は許さないという威圧的な物言いに優一は少し視線を落としたあとにっこり微笑んで頷いた。
「分かりました。7時には帰宅します」
そう言い残すと優一は自分の部屋で待たせている綾人を迎えにリビングを出て行った。
残された咲也は怒りに打ち震えて祖父へと食いかかった。
「お爺様!どうして兄様を行かせたんですか!?」
「そりゃ、下手に反対でもして揉めるのは得策じゃないからだ」
「揉めるもなにもお爺様が一言、命令出せば兄様だって…」
「本当にそう思うか?今のあいつに、わしがむやみやたらと反対して命令を出し、押さえつけたとしよう。あいつは承諾するどころかきっとこの門倉家から出て行くぞ?」
ククッと喉の奥で笑う善は自分の放った言葉が楽しくて仕方がないと笑みを溢した。
兄の優一と同じ系統の祖父はとても有能者だ。
異質を放つカリスマ性は絶大で、兄も自分も心から尊敬していた。
「わしは優一の連れて来たあの小童も気になっとる。まだ査定が済んどらん。気に食わなんだ、どんな手段を取ろうと別れさせるが今の所、優一の変わりようを見る限りなかなかいい逸材なんじゃないか?今晩の食事会が楽しみじゃい!」
わはははっと、豪快に笑う善にその場にいた幸雄と凛、そして咲也は祖父に逆らう事ができず、口を閉ざして視線を伏せた。
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