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第34話

冬休みを終え、今日から学校が始まる。 卒業を3月に控えた咲也は約2ヶ月、殆どの授業が自習だ。 今日は始業式で、帰りも早い。 窓際席ということもあり、ぼんやり窓の外の景色を眺めていたら、強張った声で挨拶され振り返った。 「さ、咲也……。おはよ…」 「渉か……。おはよう」 あの大晦日の日以来、二人は会ってはいない。 連絡もとってはいなかった。 通常なら三が日のどれかに互いに連絡を取り合って休み中、一度ぐらいは会うのだが今年はあの出来事があった為、渉は連絡することを足踏みした。 「そういや、今年は正月会ってなかったよな?明けましておめでとう」 「………」 「良い年、過ごせた?俺はあの白木がずっと家にいて最悪だった。本当、ど厚かましい奴でさ〜……」 正月での出来事を愚痴る自分にギクシャクしては無言になる渉に咲也の瞳が細くなる。 「何?お前、変だぞ?」 首を傾げて顔を覗かれた瞬間、あの日の夜、咲也が最後に見せた快感にて溺れた憂な姿が渉の脳裏に蘇った。 ボボボッと顔を赤くしては自分から一歩後退する渉に咲也はますます、訳が分からないと顔を顰める。 「変なやつ。話しかけたくないなら話しかけてくんなよ」 自分から挨拶してきたくせに。と、鼻を鳴らして咲也は椅子から立ち上がると教室を出て行った。 いつもなら引き留めるのだが、あの日の事が引っかかる渉は咲也の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。 「渉のやつ、なんだ?感じ悪いな……」 ブツブツ文句を口ずさみながら、当てもなく歩いていたら、今度は後ろから見知らぬ声に呼び止められた。 「門倉!」 振り返ると長身の優しげな風貌の男が自分を見下ろす。 「何?」 全然、記憶にない男の顔に素っ気ない態度を見せると、男は咲也との距離を詰めるように歩を進めてきた。 周りを見渡し、人気が無いことも確認した男は頬を赤らめて咲也へ緊張感を孕む声で告げる。 「門倉。俺、お前のことが三年間ずっと好きだったんだ。友達からで構わないから仲良くしてくれないか?」 「無理。俺、好きな人いるから。あと、無駄な交流とかキモいし時間の無駄だからしないことにしてるんだ。悪いね」 即決即答するようにハッキリと告げる咲也に男は待ってくれと手を伸ばしてきた。 その手に眉を顰め、咲也はバシンと払い退ける。 「汚い手で触れてこようとするな!」 気持ちが悪いと吐き捨て、男を一瞥したのち咲也はその場を早足で立ち去った。 トイレにてジャバジャバとあの男を払いのけた手を必要以上に洗いながらふと、渉の顔を思い出した。 「……なるほど」 今朝の気まずそうな渉の態度に咲也は大晦日での一連を頭に過ぎらせた。 自分を抱いた事を後悔しているのだろう 自分としては渉に抱かれたのではなく兄に抱かれたのだと、本気で思い込んでいる手前全く渉へ対して何も感じないのだが、思い込みは所詮思い込み。 現実の相手は渉なのだ。 咲也はその事実に重い溜息を吐くと鏡に映る自分を見つめた。 「やっぱりあいつを使うんじゃなかったな…」 近しい者だからこそ甘えてしまったが、それは失敗だったと反省をした。 割り切ってる咲也とは違い、渉はかなりあの日の事を意識をしていた。 咲也自身、渉という幼馴染みとの関係性を崩したくなかった。 咲也は手を洗うことを止めるとポケットの中からハンカチを取り出し、丹念に手を拭くと渉を求めて教室へと戻った。

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