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第35話

教室へ戻ると扉の前で咲也は担任とばったり鉢合わせとなった。 「お!門倉、おはよう」 フレンドリーな担任におはようございますと素っ気なく挨拶を返すと咲也は教室の中へと入った。 教室内はガヤガヤと騒がしく、視線を巡らせると渉は複数のクラスメイト達と談笑していた。 明るく元気でいつもクラスの中心に自然となっては人を惹きつける渉の周りには必ず誰かがいる。 容姿も家柄もいい。それに加えて性格もいい渉はどこか押しが弱くていつも周りに流されがちな男でもあった。 良く言えば平和主義。 悪く言えば八方美人。 争うことを好まない渉は嫌なことでも簡単に引き受けてしまう。なまじ、スペックが高いことで大概のことをこなしてしまうので周りの期待もほんのり含まれているのだろう。 こうなった一番の理由は二人いる兄と門倉家の兄弟へ刻み込まれた下僕根性みたいなものが影響しているのだろうが…… その下僕さも感じ取ってのことでか、渉は周りから『ヘタレ王子』と囁かれていた。 そんなヘタレ王子は今日も積極的な女の子に抱きつかれては少し困った顔で笑っている。 渉の兄である次男坊の猛は自分の兄の優一と共に凄まじい女癖の悪さで有名だった。 渉はというと別段そこまで悪くはないのだろうが、どうやら押しに弱いらしく、女からのモーションに抗えずそのままなし崩しにお持ち帰りされる事が多々あるようだった。 容姿も家柄も悪くないなら確かに女は放っておかないだろう。 プライドと計算高い令嬢ならば『九流』の名前はたとえ三男であっても相当価値の高いブランドだ。 こうした目ざとい女共に狩られて、ふらふらしてはアチコチでさり気なく遊んでいる渉に危惧した九流家の両親は早々に渉へと婚約者を与えた。 その女もまた活発でとにかく明るく、渉に見合った人間だった事を咲也は何故かこんな時、ぼんやりと思い出した。 「よーし!席につけ〜」 担任が教壇へ立って声を張ると生徒達は直ぐに着席した。 静かになる生徒達を前に教師は本日の予定を伝え、義務的業務をこなすと速やかに教室を出て行った。

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