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第38話
クッソ……
ムカつく……
胸がモヤモヤすると渉は眉間に皺を寄せ、長い廊下を一人歩く。
中学を卒業したあたりからどうも自分の中のタガを掛け直せない事に渉は日々、悩んでいた。
普段は咲也へ今まで通りの態度を取れるのだが、今日のように優一と戯れる姿を見たり、他人へ懐かない咲也が見知らぬ相手に笑顔を振りまいたりする姿を目の当たりにすると、心の闇が一気に膨れ上がって気を揉んでしまう。
直ぐに側を離れないと嫉妬心から嫌味を吐き続けてしまいそうになる自分に気付き、渉は咲也との距離を常に取るようにしていた。
咲也自身、ドライな性格という事もあって素っ気ない態度を見せても特に不審がる事もなくスルーしていた。
それは有難くもあり、自分に感心がないことを痛感させられて虚しさを襲うものでもあった。
長い廊下を歩いていると、ふと中庭が目に留まり渉は誘われるように足が向いた。
人気の無いそこは緑の木々に覆われていて一人の時間を過ごすのに快適な雰囲気だ。
所々に散らばるように置かれているアンティーク調の椅子や机もセンスが良く、奥へ奥へと突き進んでいく。
何か悩んだり一人になりたい時はこれからここへ来ようかな……
晴天の青空を見上げ、緑の葉の隙間から降り注ぐ日の光に荒んでいた心が洗われるのを感じた。
いい場所を見つけたと視線を前へ戻し、意外と奥行きのある中庭を渉はウキウキしながら探検していたら、一番奥の椅子に思い詰めたような顔で俯く天使を見つけて息を呑んだ。
「白木……綾人…」
無意識に呟やかれたその声に呼ばれた天使は弾かれたように顔を上げて、渉を見ると柔らかく優しい笑顔を見せた。
「こんにちは。……渉君」
ふわりと微笑むその姿は天使と称するに値するもので、見る者の目と心を鷲掴む威力があった。事実、自分もしっかりその容姿に見惚れてしまったことから恥ずかしさで渉は頬が赤くなるのを感じた。
「こんにちは……」
優一と咲也。この門倉兄弟のキーマンである白木 綾人とは正直、今は関わりたくない。
だが、無邪気に笑ってこっちに来いと手招きしてくる天使にあがらうことなどできず、渉は言われるまま綾人の前へと立った。
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