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第39話

「えへへ。入学おめでとう!これからは生徒会で宜しくね」 足をプラプラさせて満面の笑顔を見せる綾人に渉は関わりたくないなど一瞬でも思ったことを反省した。 自分が知る限り綾人は何一つ悪くない。 それどころか、あの門倉兄弟に挟まれて不憫なのは綾人の方なのだ。 なんてったって咲也の強烈なブラコンのせいで、もう少しで強姦にで合う可能性だってあったぐらいで、渉は柔らかく微笑む天使に同情した。 「綾ちゃん、隣座っていい?」 「もちろん!どうぞ」 砕けた愛称でフレンドリーに聞くと綾人は腰を浮かせ、渉の座る分を空けてくれた。 ありがとうと礼を言いながら腰を下ろして座ると、二人で空を見上げる。 「ここ、いい場所だね」 「そうなんだ〜!明るくて綺麗で静かでしょ?こんな良い所なのにあんまり人が立ち入らないから穴場だよ」 「綾ちゃんはいつもここにいるの?」 空から綾人へ視線を変えて渉が聞くと、天使は苦笑いした。 「ん〜とね…。ゆーいちと喧嘩したりしたらかな」 視線を下へと移して呟く綾人は少し言いにくそうに続けた。 「ゆーいちってハッキリしてるよね……。言い出したら聞かないし頑固だから、こうって決めたら僕の意見とか無視するんだよね……」 困ってしまうと笑う綾人に渉は共感した。 「すげぇ、分かるわ。それ!有言実行を座右の銘にしてる人だから、それを行うのに一心不乱になるからそのとばっちりがこっちに回ってくるよね」 しょんぼりする綾人の頭を撫でると、なんとなく幼い子供をあやしている感覚に陥った。 無防備な姿になんだか気が緩む。 「ありがとう……」 力なく笑う顔に渉の心を塞いでいた一つの質問が口を出た。 「ゆう兄って本気なの?」 「え?」 驚いた顔を見せた綾人にハッと我に返った渉は失礼なことを言ったと口を噤んだ。 嫌な空気が漂ってどんよりしていると、綾人がポツリと答えてくれた。 「……最初は契約だったんだ」 「契約?」 「うん。僕は自分の身を守るため。ゆーいちは……、ストレス発散かな?とりあえず、近場におもちゃが欲しかったみたい」 深く深呼吸して、ちょうど一年前の出来事を綾人は思い出すように話した。 「何がどうなったのか、突然ゆーいちが好きって言い出したんだ。本気にしなかったし、遊びの延長って思ってた。だけど……、どんどんあの人の強さに惹かれていった。芯が強くて引き込まれた。気が付いたら夢中になってて、好きって自覚した時、ゆーいちも同じ想いな事に気がついたんだ」 「……」 「ゆーいちが本気なのは……、凄く伝わる。僕も好きだから」 顔を伏せる綾人は照れる訳でも恥じらうわけでもなく追い詰められたように苦しそうだった。 「……好きなのにそんな顔するの?」 両想いの恋人同士がこんな表情をするものなのかと、渉が首を傾げると綾人は顔を上げて困ったように笑った。 「好きだからさよならするのって辛いよね」 その言葉に幼く、無邪気に振る舞う綾人が吹き飛び、未来を見据える現実主義者であることを痛感する。 「心配しなくてもゆーいちが高校卒業すると同時に僕は消えるから安心していいよ。咲也君にも伝えてね」 にっこり笑って椅子から立ち上がると、綾人はひらひら手を振って去っていった。

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