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第160話

「あ、麗美?来週時間作れるかな?話したいことあって……」 一人じゃ勇気が出ないと、渉は猛とざくろのいる側で婚約者に電話をかけた。 出来るだけスムーズかつ穏便に約束を取ると意気込み電話をかけたが、コール音が鳴って既に尻込んだ渉は声に緊張が宿った。 しかし、そんなものを柔らかく流すように麗美が涼やかな声で包み込む。 『私も話したいことあったんだ〜!嬉しい!あとね、婚約発表のときのドレス、おば様がプレゼントしてくれたの!お礼、渉からも言っておいてね』 「あ……、うん。あのさ…」 電話の前で待機していた猛が少しでも気まずそうな雰囲気に持っていけと指示を出した。 渉も機嫌が良い麗美の声にはどうしても調子を合わせられず、声のトーンを下げる。 「あのさ、麗美……」 『なぁに?っていうか、渉から電話なんて久しぶりね。本当、凄く嬉しいわ!それに久しぶりのデートね。いっぱい、いっぱいおめかしするわね』 「あ、うん。……でも、普通でいいよ」 『えー!いやよ!渉の前では可愛くいたいし』 恥ずかしそうに告げる麗美に渉だけでなく、猛とざくろも胸が痛んだ。 「……麗美は可愛いよ。本当に…」 いつも温かい笑顔で包み込んでくれる麗美を想うと、渉は途方もない感覚に心がどんどん沈んでいった。 『ありがとう。嬉しい。早く渉に会いたいなぁ〜』 「……うん」 会話だけを見ればラブラブな恋人同士なのだが、渉の表情はとても暗く、苦しそうで兄の猛は見てられないと視線を逸らす。 「……じゃあ、週末に」 渉はいたたまれなさに歯切れの悪い挨拶と共に電話を切った。 それをざくろが芳しくない顔で見つめてきて、渉もまた罪悪感から唸るよう、助けを求めるように謝罪した。 「マジ……、ごめんなさい……」

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