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第161話

「渉?」 渉は自室へ帰る廊下を歩いていたら、今、最も会うのに相応しくない人物と遭遇してしまった。 「咲也……」 深妙な面持ちで名前を呼んでくる渉に咲也が小首を傾げる。 「どうかしたのか?」 「………ん。大丈夫」 どうみても大丈夫じゃない渉に咲也が眉間に皺を寄せた。 「大丈夫じゃないじゃん。何?言えよ」 「いいから。咲也には関係ない」 麗美のあんな嬉しそうな声を聞いた後に咲也と会話なんて楽しめないと、渉は顔を逸らす。 一方、関係ないと突っぱねられた咲也は疎外感に寂しさから苛立ちが生まれた。 「あっそ。関係ないならいい!邪魔したな!」 不機嫌な声を張り上げ、背を向けて歩きだす咲也に渉はしゅんっと肩を落として落ち込む。 「………咲也」 離れていく咲也の背中へ小さな声で助けを呼ぶが、その声はあまりにも小さ過ぎて咲也には届かない。 もう嫌だと、下を向いて半泣き状態の渉は途方に暮れる迷子の子供のように立ち竦んだ。 「この、バカっ!」 ほんの少し心残りがあった為、振り返ると、捨てられた犬のように立っては、泣き出してしまいそうな恋人に咲也は駆け寄ると同時に罵声を浴びさせた。 情けない顔で咲也を見た渉は自分の元へ戻ってきてくれた咲也へ飛びつくように抱きつく。 「………渉?なに?もしかして、兄様?それとも次男のせい?」 いつも2人にいじめられては半べそかいて抱きついてくる渉を思い出し、咲也が抱きしめ返して頭を撫でてやる。 ただ今回の相手はその二人ではない。 渉はフルフルと首を左右へ振って、咲也の肩口に顔を埋めた。 「俺………、咲也が好きで辛い…」 曖昧な本音を囁く渉に咲也は訳が分からなくて、頭を撫でる手を止めた。 そのまま身体を少しだけ離すと、渉の黒い瞳を見つめる。 苦しみに覆われたそんな瞳に咲也の顔が辛そうに歪んだ。 そんな顔も美しくて、高鳴る自分の心臓を渉は憎む。 「……お前が辛くても、もう離してやれない」 困った顔で本音を吐露する咲也は、ここが寮の廊下であることも忘れて、渉の頬を両手で包み込むと、そっと唇を重ねた。

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