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第163話

麗美の名前を出したとき、一瞬だが咲也の身体が強張るのを渉は感じた。 「………そっか。でも、そうだよな。高二なんだし。むしろ、遅い方だよな」 少し間が空いたが、咲也はいつもと変わらぬ声のトーンで言った。 「まぁ……、あの麗美だし破棄に持ってくのは至難の業だよな」 ビビって何もいえずにいる渉に代わり、咲也が淡々と話していく。 「あいつ、お前にマジ惚れだしな〜。お前が他所で女と遊んでても流せるぐらい器もでかいし……」 少し考えを巡らせた咲也は首を傾げて悩んだ。 「どうしようか?」 身も蓋もないストレートな咲也に渉はゆっくりと顔を上げて、紅茶色の瞳を覗き込んだ。 「ん?なに?何か考えある?っていうか、発表すんのいつ?もしかして、俺のとこにも招待状とか送られてる?」 緊張感のカケラもないまるで他人事のように会話を進めようとする咲也に渉は強張っていた身体を脱力させた。 「なんか咲也……、さっぱりしすぎ……。マジスゲェ…」 「いやいや、俺もお前と付き合うことになって多かれ少なかれ麗美の事も考えてたんだよ。このまま進むと大学卒業したら結婚だろ?」 「あ……、うん…。考えてたんだ」 自分はすっかり忘れていたので、咲也を本当に凄いと、渉は内心関心した。もちろん、気まずくなりたくなくて焦ってもいる。 それにしてもあまりに冷静な咲也に渉は自分がアタフタしていたのを恥じた。 そんな様子の渉を咲也がポンポンッと頭を叩いてやる。 「色々思うことあるだろうけど、もう少し客観的にみろよ。そうじゃないと麗美のことは振れないぞ」 少しズレた眼鏡を右手の中指で押し上げながら咲也が言うと、渉は苦笑しながら身体を起こし、咲也の身体を離した。 「咲也、ごめんな。俺が無責任に婚約なんてしたから……」 「まぁな…。お前には結構お似合いの婚約者だったからな……。俺も麗美は良い奴だって思うし」 腕を組んで宙を見上げる咲也は包み隠さず、真実を述べた。 「………」 「………」 数分間、微妙な沈黙が続き、渉は恐る恐る聞いた。 「…………怒ってる?」 「いや……。ただ良いアイデアが浮かばない」 しょぼんとしながら伺ってくる渉に咲也は苦笑すると、紅茶色の前髪をくしゃりと乱して肩を竦めた。

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